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液体装薬

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
従来の薬嚢による装薬。複数の薬嚢を並べている。

液体装薬(えきたいそうやく, Liquid Propellant)は、大砲などの砲弾の発射薬として研究されている固体の火薬に代わる液体の薬剤。液体発射薬砲(Liquid Propellant Gun: LPG)とも呼ばれる[1]。

概要

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従来式の57mm砲の薬莢式弾薬
薬莢(左側の真鍮製の円筒)内で固体装薬である火薬が燃焼し、その圧力で右側の弾体が右側に押され砲腔内を加速されて飛んでゆく

液体装薬は従来の固体発射薬に代わり、外部のタンクから砲内に液体状の発射薬(装薬)を注入して点火・燃焼させ、砲腔内を加圧することで弾体を加速する技術である。砲身内で発火させた場合、弾を発射する前に火器自体が急激な圧力上昇に耐えきれず破裂・爆発する危険性があり、液体装薬には適切な燃焼速度と、限定された条件以外では発火しない安定性が必要となる。

液体状の火薬としてはニトログリセリンが存在したが、わずかな衝撃を受けただけで発火爆発する爆薬であるため取り扱いが難しかった。後に珪藻土に染みこませることで固体火薬として取り扱えるようにしたダイナマイトの発明により安全に利用できるようになった。

開発が進められている技術としては、ロケットの液体推進剤と同じ薬剤を使用する2液式のものと1液式のものがある。2液式では点火前に薬室内に注入・混合するバルク(Bulk)式のものと、発射時に薬室内に注入されると同時に2液が化学反応して燃焼が始まるハイパーゴリック(Hypergolic)式のものがある。

1950年代初期から米英でも検討されていたが、各国で注目されたのは1970年になってからである。その頃から火砲の性能や利便性を高める画期的な軍事技術として期待されていたが、現在は安定した燃焼速度が保てないために砲口速度が不安定で、実用化にはまだ遠い段階である。

日本においても防衛庁(現・防衛省)が、1987年(昭和62年)度から研究を開始し、1993年度から2000年(平成5年から12年)度にかけて試作砲の発射試験を行っている[1]。

利点

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液体装薬では液体を注入する配管やポンプが必要になるため砲の構造は複雑化するが、発射弾ごとの薬莢または薬嚢が不要となり、給弾はほとんど弾体だけとなる。装薬に相当する液体の保管は1-2基のタンクだけになるので空間・重量・装弾作業が軽減されて弾薬コストも安くなる。なにより固体発射薬による1.7km/s前後の初速上限値が、2.0-3.0km/s程度まで向上できると期待されている。

固体装薬を用いる艦載砲や榴弾砲では、古くから射距離に応じて装薬量=砲口初速を加減することが一般的に行われているが、小分けになった薬嚢を使うため微調整は難しく、複数のサイズを用意しその都度組み合わせて装填する作業が発射レートの足かせになっていた。液体装薬では注入量を制御することで無段階の調整が可能になり、複数の薬嚢を保管場所から取り出して装填するよりも迅速かつ高精度になることが期待されている。

同じく、実現に到っていない多薬室砲では、装填システムの大幅な簡素化や、副薬室の閉鎖機開口面積の縮減などメリットはさらに大きい。またハイパーゴリック式とも通常の単一薬室よりも投射エネルギー比で最大腔圧を小さくできる点で相互にメリットがあり、実用化に近づくと期待される。

開発上の問題

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105mm戦車砲のカットモデル
手前の茶色の部分が固体装薬である

液体装薬を均一に燃焼させる技術の開発が難航している。点火した端から順に燃焼するのが理想であるが、液体の場合は濃度の差などで燃焼は均一にならず、全てが同時に燃焼(爆発)する可能性もある。

点火後も液体装薬を薬室内に注入し続けるハイパーゴリック式では、ごく短時間に超高圧で注入する必要があり、薬室内の燃焼ガスをパイプによって外のピストンまで導くことで高圧を得て、ピストンの反対側で液体装薬を加圧する技術の開発が行われている。しかしピストンのシーリング技術の開発に成功していない[2]。

ロケットエンジンに利用されている圧送式サイクルやターボポンプは非常に強固で精密な配管類が必要なためコスト上昇に繋がっており、加圧する技術が完成しても装置は高コストになると予想される。

ロケットの液体推進剤として実用化されているハイパーゴリック式推進剤は腐蝕性や毒性が高い物質であり、作業時に防護服が必要になり抜き取り後には機器の洗浄が必要になるなど、車両や艦船など作業スペースが限られる場所での取り扱いが難しく運用コストが高くなることが予想される。ハイパーゴリック式推進剤の火災による事故(ニェジェーリンの大惨事)では火災から離れた位置にいた人間も有毒ガスで被害を受けているなど、逃げ場のない艦船では事故や被弾による火災で壊滅的な被害を受ける可能性がある。

実用化できれば、自走砲や戦車・機関砲といった陸上兵器、戦闘用艦艇の艦載砲などの高性能化が期待されているが、PzH2000や99式自走155mmりゅう弾砲など新世代型の自走榴弾砲では、煩雑な分離装薬式に対応する自動装填装置の実用化が進んでいる。

脚注

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出典

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  1. 1 2 防衛庁技術研究本部五十年史・204ページ
  2. ↑ 日本兵器研究会 編『現代戦車のテクノロジー』(第2刷)アリアドネ企画、2001年5月10日。

関連項目

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