篩部
篩部(師部、しぶ、英: phloem)とは、維管束植物(シダ植物や種子植物)の維管束を構成する2つの複合組織のうちの1つであり(もう1つは木部)、篩管(師管、しかん)や篩細胞組織、篩部繊維組織、篩部柔組織からなる。頂端分裂組織に由来する一次篩部(図1a)と、維管束形成層に由来する二次篩部(靭皮; 図1b)がある。篩部の主な機能は光合成産物など有機物の輸送であり(図1c)、また植物体の機械的支持や物質貯蔵などにも寄与している。維管束のうち、木部の管状要素は篩細胞であるのに対し、篩部の通道に関与する篩要素は生細胞である[1][2]。
名前の由来
[編集]「篩部」の名は、篩管の隔壁(篩板)に多数の篩孔がある様子を篩(ふるい)に見立て、名付けられた[3][4]。
しかし「篩」が当用漢字ではなかったことから、1956年に文部省が編纂した『学術用語集 植物学編』で代用として「師部」の表記が用いられた[5]。ただし、「篩」は「当用漢字以外の漢字でも日本植物学会で学術用語のなかに使いたいと希望するもの」に該当し、本文では「師〖篩〗部」の表記が用いられた[5][注釈 1]。1981年(昭和56年)には、当用漢字表は廃止されたが、「篩」が表外であるのは常用漢字表にも引き継がれ、1990年に文部省・日本植物学会 編の『学術用語集 植物学編(増訂版)』においても「常用漢字に書きかえると分かりにくい場合」に該当しながらも「師〖篩〗部」と表記される[11]。中等教育ではこれに準じ、「師管」のような表記が用いられる[3][注釈 2]。
ただし、「師」には「ふるい」の意味はないことから[3]、「師」の書き換えはすべきでないという批判もあり[注釈 3]、ほとんどの専門書・教科書では元の表記である「篩」が用いられる[17][18][19][20][21][22][23][24][4][25][26][27][28][注釈 4]。
木(木本植物)において篩部は樹皮の内層に存在しており、篩部を意味する英語の phloem は樹皮を意味するギリシア語の φλοιός (phloios) に由来する[30]。
構成
[編集]篩部は、篩要素(篩管要素や篩細胞)、篩部繊維、篩部柔細胞からなる[31][24][32]。これらをまとめて篩部要素(しぶようそ、phloem element)という[31]。
篩要素
[編集]篩要素(師要素、しようそ、sieve element)は管状の細胞であり、光合成産物などの有機物の通道に機能している[33][34][19][22](→#篩部輸送(篩部転流)を参照)。篩要素は生細胞ではあるが、核や液胞などの細胞小器官がしばしば退化しており[31][2][注釈 5]、物質が通道しやすくなっている[35][注釈 6]。またしばしば特殊な色素体をもつ[36]。細胞壁はふつう一次壁のみで、二次細胞壁を欠き[31][34][37][注釈 7]、やや厚く、リグニンを含むこともある[31]。細胞間の物質輸送は、原形質連絡が拡大した篩孔(師孔、しこう、sieve pore)を通して行われる[38][34][39]。篩孔の大きさは 1–15 μm(マイクロメートル)で[40]、 分類群や位置によって異なり、裸子植物の篩細胞では 1 μm 程度であるが、被子植物の篩管要素の篩板では 14 μm に達する[1]。篩孔において、原形質連絡の周囲はカロースが沈着している[36][39]。篩要素の細胞表面には、多数の篩孔が集まって篩域(師域、しいき、sieve area)を形成している[38][34][41][19]。篩要素が機能するのはふつう数ヶ月程度であり(長年機能している例もある)、一定期間後または損傷した篩要素ではカロースがさらに沈着して篩孔は閉塞される[33][37][39]。篩要素として、被子植物は篩管要素を、それ以外の維管束植物(シダ植物や裸子植物)は篩細胞をもつ[42][34][43][19]。
篩管要素
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篩管要素(師管要素、しかんようそ、sieve tube element, sieve tube member; 篩管細胞〈師管細胞〉、しかんさいぼう、sieve tube cell)は、上下端で縦につながって篩管(師管、しかん、sieve tube)を形成している[44][34][42][45][4](図2a)。篩管要素どうしの上下の隔壁は篩板(師板、しばん、sieve plate)とよばれ、大型の篩孔(ときに直径 10 µm 以上)が集合した「篩(ふるい)」のような篩域が形成されている[38][34][37][41][42][注釈 8](図2b)。篩板における篩域の配置様式には多様性があり、細長い篩域が階段状に配置しているもの(例: シュウカイドウ)や不定形の篩域が集まっているもの(例: トウ属)は複合篩板 (ふくごうしばん、compound sieve plate) とよばれ、1個の大きな篩域をもつもの(例: カボチャ; 図2b)は単篩板 (たんしばん、simple sieve plate) とよばれる[42][46][47]。篩管における物質輸送は、主に篩板を通して行われるが、ふつう側面にも篩域が存在する(側篩域)[46]。ただしこのような篩域の篩孔は小さい[37][42]。篩板は側壁に対して斜めのものからほぼ直角のものまである[37][46]。
篩管要素には、同一の母細胞から不等分裂によって形成された小型の細胞である伴細胞(はんさいぼう[48]、ばんさいぼう[49]、companion cell)が付随している[33][34][36][42][50]。伴細胞は多数の原形質連絡(ときに原形質連絡が分枝)によって篩管要素とつながっており、糖などは伴細胞を介して篩管要素へ運ばれる[35][37]。また伴細胞はタンパク質などを送ることで篩管要素の代謝を制御していると考えられている[35][50]。被子植物の葉の維管束にある伴細胞は、篩部輸送における働きなどによって、通常の伴細胞(ordinary companion cell)、輸送細胞(ゆそうさいぼう、transfer cell)、中間細胞(ちゅうかんさいぼう、intermediate cell; 中継細胞[51])の3タイプに分けられる[52](#篩部輸送(篩部転流)も参照)。輸送細胞は細胞壁が細胞内部に向けて突起状に肥厚する[53]。中間細胞は周囲の維管束鞘細胞と多くの原形質連絡を有し、数多くの小型の液胞を持つ[53]。
篩管要素・篩管は、基本的に被子植物に特徴的な構造であるが、被子植物の中でアウストロバイレヤ科は篩管を欠く[54]。伴細胞は被子植物と一部の裸子植物のみが持ち、シダ植物や針葉樹類は欠く[34]。
篩細胞
[編集]篩細胞(師細胞、しさいぼう、sieve cell)は一般的に篩管要素より細長く紡錘形であり、側面で互いに接して篩細胞組織(師細胞組織、sieve cell tissue)を形成している[55][44]。篩板をもたず、細胞側面に散在する篩域を通して物質輸送が行われる[36]。篩管にくらべて通道効率は低いと考えられている[55]。篩細胞には伴細胞は付随していないが、裸子植物にはタンパク細胞 (albuminous cell) とよばれる細胞が篩細胞に付随しており(篩細胞と姉妹の関係にはない)、伴細胞と同様に篩細胞の機能を補助していると考えられている[56][57]。篩細胞は、被子植物以外の維管束植物に存在する。
篩管要素と篩細胞の関係は、木部における道管要素と仮道管の関係に似ているため、篩管を道管状篩管(導管状篩管[17]、どうかんじょうしかん、vessel form sieve tube)、篩細胞組織を仮道管状篩管(仮導管状篩管[58]、かどうかんじょうしかん、tracheid form sieve tube)と呼んでいたこともある[42][55][59]。
篩部繊維
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篩部繊維(師部繊維、しぶせんい、phloem fiber)は発達した細胞壁をもつ細長い細胞であり、ふつう原形質を欠く死細胞である[34]。篩部繊維は、集合して篩部繊維組織(師部繊維組織、しぶせんいそしき、phloem fiber tissue)を形成している[34](図3)。篩部繊維は厚膜細胞からなり[58]、木部繊維などと共に、植物体の機械的支持に寄与している[34][58]。篩部繊維は木部繊維にくらべて一般的に長く、またふつう壁孔は不明瞭である[34]。長さはアサ(アサ科)で 1 cm、アマ(アマ科)で 2–4 cm、カラムシ(イラクサ科)では 22 cm に達する[60][61]。これらの繊維は布や縄の原料として利用される(下記参照)。篩部繊維は、ふつう篩要素の外側に形成される[62](図3)。また維管束周辺に厚壁細胞が発達する種では、篩部繊維は発達しない[63](例: カボチャ、ウマノスズクサ)。この厚壁細胞は厚壁異型細胞(sclereid)であり、組織の保護と強化の役割を持つ[2]。被子植物と一部の裸子植物以外では、ふつう篩部繊維は見られない[64]。裸子植物のうち、モミ連 Abieteae を除く[64]、多数の針葉樹類には二次篩部に篩部繊維と厚壁異型細胞が発達する[65]。ブドウやサボテン科では、木部繊維のように内部に隔壁を生じ、隔膜繊維となることもある[61]。
篩部柔細胞
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篩部に存在する柔細胞は篩部柔細胞(師部柔細胞、しぶじゅうさいぼう、phloem parenchymatous cell)をよばれ、 集合して篩部柔組織(師部柔組織、しぶじゅうそしき、phloem parenchyma)を形成している[64]。短柱状の薄膜細胞からなる[58]。澱粉や脂肪などの有機養分の貯蔵などに働いている[64]。タンニンや樹脂を貯蔵するものや分泌組織をもつこともある[64][37]。乳液(latex; ゴム)を分泌する細胞は乳管(にゅうかん、laticifer)とよばれる[2][66]。篩管や篩部繊維とは異なりすべての維管束植物が持つが、キンポウゲ科や単子葉類では篩部の内部ではなく周辺に分布する[64]。
一次篩部(下記)では、篩部柔細胞は篩要素に付随して存在する[24]。二次篩部(下記)の場合には、二次木部の柔組織と同様、長軸にならんだ細胞からなる軸方向柔組織 (axial parenchyma) と、放射方向に配列した細胞からなる放射柔組織 (ray parenchyma) がある[64](図4)。
一次篩部と二次篩部
[編集]篩部は、形成される場所に応じて一次篩部と二次篩部に分けられる[32][63][67]。一次篩部はさらに原生篩部と後生篩部に分けられる[32][63][68]。二次篩部を形成するほとんどの植物(種子植物)では、二次篩部は維管束形成層の外側に形成される[69][70]。
一次篩部
[編集]頂端