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ゲーム音楽はオーケストラを救ったのか? コンサートで蘇る、僕たちの冒険の記憶の話

クーロンです。

先日、Xで興味深い投稿を見かけました。

経営難に苦しんでいたオーケストラが、ゲーム音楽のコンサートによって新しい観客を獲得している、という内容です。

近年は、『ファイナルファンタジー』『ゼルダの伝説』『モンスターハンター』など、ゲーム音楽を演奏するコンサートが世界各地で開催されています。

なぜゲーム音楽のコンサートに、これほど多くの人が集まるのでしょうか。

僕はドラゴンクエストのラスボス戦の曲を聴くと、当時の戦闘画面が頭に浮かびます。モンスターハンターの曲でも同じです。

観客はクラシック音楽を聴くためだけに、コンサートホールへ行くのではありません。

かつて自分が戦った場所へ、もう一度帰りに行くのではないでしょうか。

ゲーム音楽は、本当にオーケストラを救っているのか

まず、元の投稿について調べてみました。

オーケストラの運営が、チケット収入だけで成り立ちにくいのは事実です。全米オーケストラ連盟などの調査を見ると、個人や企業からの寄付、財団の助成金、公的な支援などを組み合わせて運営しています。

ゲーム音楽の公演に大勢の観客が集まっているのも事実でした。「Sonic Symphony」は世界各地で公演され、主催者によると多くの会場でチケットが完売しています。

一方、投稿にあった「ロンドンのバービカン・センターを3夜連続で満員にした」という部分は確認できませんでした。公式記録では、2023年9月16日の同日2公演です。

また、ゲーム音楽によってオーケストラの経営そのものが救われた、と裏付ける資料も見つかりませんでした。

つまり、事実に基づいている部分はあるものの、その影響を少し大きく見せた投稿だったようです。

それでも、ゲーム音楽が新しい観客を連れてきたことには意味があります。英国ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の調査では、若い世代がゲームを通じてオーケストラ音楽に出会っていることが報告されています。

ゲーム音楽はオーケストラを救ったのではなく、コンサートホールへ向かう新しい入口を作ったのかもしれません。

ドラゴンクエストは、最初からクラシックだった

日本でゲーム音楽のオーケストラコンサートを語るなら、ドラゴンクエストは外せません。

1987年8月20日、東京のサントリーホールで、第1回「ファミリー・クラシックコンサート」が開催されました。演奏されたのは『ドラゴンクエストI』と『ドラゴンクエストII』の楽曲です。

この公演は「世界初のゲーム音楽コンサート」と紹介されることもあります。

ドラゴンクエストとオーケストラの相性がよかったのは、偶然ではありません。

任天堂の「社長が訊く」によると、すぎやまこういちさんは、ゲームの世界観を「中世ヨーロッパの騎士物語」と説明され、ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』を連想しました。そこから、クラシックを音楽の土台にしたそうです。

つまり、ファミコンの音を後から豪華にしただけではありません。最初からクラシックを想定して作られた曲が、オーケストラによって本来の広がりを取り戻したとも考えられます。

音の少なさが、強いメロディーを生んだ

ドラゴンクエスト以外の昔のゲーム音楽にも、オーケストラへ広げやすい特徴があります。

『ファイナルファンタジー』シリーズなどの作曲で知られる植松伸夫さんは、ファミコンでは基本的に三つの音を、メロディー、ハーモニー、ベースに割り当てていたと語っています。

使える音が少なければ、音色や迫力で補うことはできません。耳に残る旋律と、少ない音でも曲として成立する明確な骨格が必要になります。

その骨格があるからこそ、弦楽器や管楽器、打楽器を加えてもメロディーが埋もれず、大きく展開できるのではないでしょうか。性能の制約によって、編曲の余白が生まれたともいえます。

もちろん、すべてのゲーム音楽がメロディー中心ではありません。現在は電子音楽や歌、環境音楽、プレイヤーの行動に合わせて変化する曲など、表現も多様です。

それでも、少ない音で印象づける必要があった初期のゲーム音楽は、オーケストラと出会う土台を持っていたのでしょう。

ゲーム音楽は、記憶を再生するスイッチである

ゲーム音楽の魅力は、曲の完成度だけではありません。

ドラゴンクエストのラスボス戦は、自分でコマンドを選びます。
モンスターハンターでは、自分で攻撃し、避け、何度も失敗します。
そのため曲には、作品の場面だけでなく、自分がそこで何をしたかという記憶まで結びついています。

とはいえ、ゲームの内容をすべて覚えているわけではありません。
曲を聴けば戦闘画面は浮かんでも、背景や細かな演出までは曖昧ですので、コンサートで映し出されるゲーム映像には意味があります。

生演奏が感情を動かし、スクリーンの映像が忘れていた情報を補い、観客自身の記憶が場面を完成させる。実際に『FINAL FANTASY VII REBIRTH』のオーケストラツアーでも、スクウェア・エニックスが制作したHD映像を演奏に合わせて上映しています。

同じ映像を見ていても、観客が思い出している冒険は、それぞれ違います。

ゲーム音楽の観客は、その曲を初めて聴く人ではありません。すでに何度もその音楽を聴き、その世界を歩き、ときには同じ敵に何度も敗れています。

ゲーム音楽だけで、オーケストラの経営問題を解決できるわけではありませんが、ゲーム音楽は、これまでクラシックに縁のなかった人をホールへ連れてきます。
そして、ゲーム機から流れていた曲だけでなく、プレイヤーの冒険や戦いの記憶までコンサートホールへ運び込みます。

僕もいつか、ホールであの曲を聴けば、かつて戦ったラスボスの姿を思い出すのでしょう。

それでは、また!


出典・参考資料



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