ゲーム音楽はオーケストラを救ったのか? コンサートで蘇る、僕たちの冒険の記憶の話
クーロンです。
先日、Xで興味深い投稿を見かけました。
経営難に苦しんでいたオーケストラが、ゲーム音楽のコンサートによって新しい観客を獲得している、という内容です。
Classical music has never paid for itself. Ticket sales cover roughly a third of an American orchestra's budget, and that's the healthy ones. Since 2010, orchestras in Philadelphia, Louisville, Honolulu, and Syracuse have all filed for bankruptcy. Then gamers started buying… https://t.co/YEunvqJhi3
— Aakash Gupta (@aakashgupta) August 3, 2026
近年は、『ファイナルファンタジー』『ゼルダの伝説』『モンスターハンター』など、ゲーム音楽を演奏するコンサートが世界各地で開催されています。
なぜゲーム音楽のコンサートに、これほど多くの人が集まるのでしょうか。
僕はドラゴンクエストのラスボス戦の曲を聴くと、当時の戦闘画面が頭に浮かびます。モンスターハンターの曲でも同じです。
観客はクラシック音楽を聴くためだけに、コンサートホールへ行くのではありません。
かつて自分が戦った場所へ、もう一度帰りに行くのではないでしょうか。
ゲーム音楽は、本当にオーケストラを救っているのか
まず、元の投稿について調べてみました。
オーケストラの運営が、チケット収入だけで成り立ちにくいのは事実です。全米オーケストラ連盟などの調査を見ると、個人や企業からの寄付、財団の助成金、公的な支援などを組み合わせて運営しています。
ゲーム音楽の公演に大勢の観客が集まっているのも事実でした。「Sonic Symphony」は世界各地で公演され、主催者によると多くの会場でチケットが完売しています。
一方、投稿にあった「ロンドンのバービカン・センターを3夜連続で満員にした」という部分は確認できませんでした。公式記録では、2023年9月16日の同日2公演です。
また、ゲーム音楽によってオーケストラの経営そのものが救われた、と裏付ける資料も見つかりませんでした。
つまり、事実に基づいている部分はあるものの、その影響を少し大きく見せた投稿だったようです。
それでも、ゲーム音楽が新しい観客を連れてきたことには意味があります。英国ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の調査では、若い世代がゲームを通じてオーケストラ音楽に出会っていることが報告されています。
ゲーム音楽はオーケストラを救ったのではなく、コンサートホールへ向かう新しい入口を作ったのかもしれません。
ドラゴンクエストは、最初からクラシックだった
日本でゲーム音楽のオーケストラコンサートを語るなら、ドラゴンクエストは外せません。
1987年8月20日、東京のサントリーホールで、第1回「ファミリー・クラシックコンサート」が開催されました。演奏されたのは『ドラゴンクエストI』と『ドラゴンクエストII』の楽曲です。
この公演は「世界初のゲーム音楽コンサート」と紹介されることもあります。
ドラゴンクエストとオーケストラの相性がよかったのは、偶然ではありません。
任天堂の「社長が訊く」によると、すぎやまこういちさんは、ゲームの世界観を「中世ヨーロッパの騎士物語」と説明され、ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』を連想しました。そこから、クラシックを音楽の土台にしたそうです。
つまり、ファミコンの音を後から豪華にしただけではありません。最初からクラシックを想定して作られた曲が、オーケストラによって本来の広がりを取り戻したとも考えられます。
音の少なさが、強いメロディーを生んだ
ドラゴンクエスト以外の昔のゲーム音楽にも、オーケストラへ広げやすい特徴があります。
『ファイナルファンタジー』シリーズなどの作曲で知られる植松伸夫さんは、ファミコンでは基本的に三つの音を、メロディー、ハーモニー、ベースに割り当てていたと語っています。
使える音が少なければ、音色や迫力で補うことはできません。耳に残る旋律と、少ない音でも曲として成立する明確な骨格が必要になります。
その骨格があるからこそ、弦楽器や管楽器、打楽器を加えてもメロディーが埋もれず、大きく展開できるのではないでしょうか。性能の制約によって、編曲の余白が生まれたともいえます。
もちろん、すべてのゲーム音楽がメロディー中心ではありません。現在は電子音楽や歌、環境音楽、プレイヤーの行動に合わせて変化する曲など、表現も多様です。
それでも、少ない音で印象づける必要があった初期のゲーム音楽は、オーケストラと出会う土台を持っていたのでしょう。
ゲーム音楽は、記憶を再生するスイッチである
ゲーム音楽の魅力は、曲の完成度だけではありません。
ドラゴンクエストのラスボス戦は、自分でコマンドを選びます。
モンスターハンターでは、自分で攻撃し、避け、何度も失敗します。
そのため曲には、作品の場面だけでなく、自分がそこで何をしたかという記憶まで結びついています。
とはいえ、ゲームの内容をすべて覚えているわけではありません。
曲を聴けば戦闘画面は浮かんでも、背景や細かな演出までは曖昧ですので、コンサートで映し出されるゲーム映像には意味があります。
生演奏が感情を動かし、スクリーンの映像が忘れていた情報を補い、観客自身の記憶が場面を完成させる。実際に『FINAL FANTASY VII REBIRTH』のオーケストラツアーでも、スクウェア・エニックスが制作したHD映像を演奏に合わせて上映しています。
同じ映像を見ていても、観客が思い出している冒険は、それぞれ違います。
ゲーム音楽の観客は、その曲を初めて聴く人ではありません。すでに何度もその音楽を聴き、その世界を歩き、ときには同じ敵に何度も敗れています。
ゲーム音楽だけで、オーケストラの経営問題を解決できるわけではありませんが、ゲーム音楽は、これまでクラシックに縁のなかった人をホールへ連れてきます。
そして、ゲーム機から流れていた曲だけでなく、プレイヤーの冒険や戦いの記憶までコンサートホールへ運び込みます。
僕もいつか、ホールであの曲を聴けば、かつて戦ったラスボスの姿を思い出すのでしょう。
それでは、また!
出典・参考資料
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします!
いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!