商売の基本は、お客様のほしいものを売ること
商売の基本は、お客様のほしいものを売ることである。
当たり前のように聞こえるが、これを本当に実践するのは簡単ではない。なぜなら、商売をしていると、どうしても「自分たちが売りたいもの」や「これから伸びると言われているもの」に目が向きやすくなるからだ。
もちろん、商売をする上で市場の流れや法規制を考えることは欠かせない。
世の中がどちらに向かっているのか。
法律や規制がどのように変わっていくのか。
技術革新によって、これまでの常識がどう変わるのか。
こうしたことを考えずに事業を続けることはできない。
しかし、それでも商売のベースにあるのは、やはり顧客である。
大きな流れが、顧客の需要とは限らない
分かりやすい例が、自動車業界におけるEVの流れである。
一時期、EUを中心に、エンジン車からEVへ置き換えていくという大きな流れがあった。環境規制や脱炭素の流れもあり、多くの自動車メーカーがその方向に大きく舵を切った。
ホンダなども、一時はEVに全振りするような方針を打ち出していたように見えた。
たしかに、そのときは大きな流れに見えた。
これからはEVだ。
エンジン車の時代は終わる。
自動車メーカーは早くEVに対応しなければならない。
そうした空気があった。
しかし、実際にはどうだったのか。
掛け声としては大きかったが、それがそのまま顧客の購買行動に結びついていたわけではなかった。価格の問題、充電インフラの問題、航続距離への不安、寒冷地での使い勝手、中古車価値や電池交換への不安など、顧客側には現実的な課題が多く残っていた。
つまり、政策や規制としての流れはあっても、顧客の需要としての流れは、そこまで太くなっていなかったのだと思う。
大きな船を浮かべるには、水量が必要である
この状況をたとえるなら、大きな船を浮かべようとしたものの、川の水量が思ったほどなかった、ということではないだろうか。
上流では、大きな川になると言われていた。
地図の上では、太い流れに見えていた。
多くの人が、その川に船を浮かべようとした。
しかし、実際に下ってみると、川は先細っていた。
大きな船を浮かべるには、十分な水量が必要である。
事業でいえば、それは顧客の需要である。
市場のトレンドや法規制は、たしかに流れをつくる。
しかし、それだけでは商売にならない。
最後にお金を払うのは顧客である。
顧客が必要としていないもの、顧客がまだ受け入れられないものを、いくら大きな流れに見えるからといって売ろうとしても、商売としては成り立ちにくい。
「これから伸びる」と「今ほしい」は違う
ここで大切なのは、「これから伸びる」と言われているものと、「顧客が今ほしいもの」は必ずしも同じではないということだ。
もちろん、将来を読むことは重要である。
時代の変化に鈍感であってはならない。
法規制の変化に対応できなければ、事業の継続そのものが難しくなることもある。
しかし、未来を見すぎるあまり、目の前の顧客が見えなくなってしまっては本末転倒である。
顧客は、必ずしも世の中の大きな理想だけで動いているわけではない。
安く買いたい。
手間を減らしたい。
安心して任せたい。
失敗したくない。
社内で説明しやすい取引先を選びたい。
今困っていることを、確実に解決してほしい。
こうした具体的な事情の中で、購買を判断している。
だからこそ、商売をする側は、大きな流れを見ながらも、それを目の前のお客様の困りごとに翻訳しなければならない。
顧客不在の投資は危うい
市場や法規制だけを見ていると、どうしても大きな投資をしたくなる。
これからはこの分野だ。
この技術に乗り遅れてはいけない。
今のうちに設備を入れなければならない。
人材も集めなければならない。
そう考えること自体は悪くない。
しかし、その投資の先に、実際にお金を払ってくれる顧客がいるのか。
その顧客は、どのくらいの金額を払うのか。
どのくらいの頻度で買ってくれるのか。
本当に困っているのか。
代替手段ではなく、自社の商品やサービスを選ぶ理由があるのか。
ここを見誤ると危ない。
大きな流れに乗ったつもりが、顧客の需要という水量が足りず、船が座礁してしまうことになる。
商売の原点に戻る
商売の基本は、お客様のほしいものを売ること。
ただし、これは単にお客様の言う通りにするという意味ではない。
お客様自身も、本当にほしいものを言語化できていないことがある。
「安くしてほしい」と言っていても、本当に求めているのは、安心かもしれない。
「早くしてほしい」と言っていても、本当に求めているのは、予定通りに進む確実性かもしれない。
「便利にしてほしい」と言っていても、本当に求めているのは、自分たちの手間や責任を減らすことかもしれない。
だから、商売をする側は、お客様の言葉を聞くだけでなく、その奥にある本当のニーズを考える必要がある。
市場を見る。
法規制を見る。
技術の変化を見る。
しかし、最後は顧客を見る。
この順番を間違えてはいけない。
川の水量を見極める
大きな時代の流れを読むことは大切である。
しかし、その流れに本当に水量があるのか。
そこに船を浮かべられるだけの顧客需要があるのか。
自社の船の大きさは、その川に合っているのか。
これを見極めることが、経営者にとって重要なのだと思う。
市場や法規制という大きな流れを見る必要はある。
しかし、船を浮かべる川の水量を決めるのは、最後は顧客の需要である。
商売のベースは、やはり顧客である。
この原点を忘れないようにしたい。
