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夏になると思い出す|ツバメの成長を、最後まで見届けた。

毎年、夏前になるとツバメがやってくる。

お店の建物に入ってこないようにするために、私たちは何年も、ツバメが巣を作らないように格闘してきた。

巣作りを始めると、対策をする。
また始める。また対策する。

そんなことを繰り返していた。
ところが今年は、気づいたときにはもう、巣が完成していた。

卵やヒナがいる巣を撤去してはいけないことを知り、巣立つまで見届けることになった。

そして、見守っているうちに気づいた。
ツバメって、こんなに可愛かったんだ、と。


最初は、親鳥が卵を温めている。
しばらくすると、巣の中から小さなヒナの頭が見えるようになる。

パヤパヤの毛。
そして、とにかく大きなクチバシ。

最初に見たときは、
「……宇宙人みたいだな」と思った。

正直、最初から可愛いわけではない。
けれど、それが日に日に変わっていく。

少しずつ大きくなって、羽が生えて、1〜2週間もすると、いつの間にかちゃんと「鳥」の形になっている。

巣の中で、4〜5羽が横並びになっている。
それだけで、なんだか微笑ましい。
とても、可愛い。

今回の巣は、かなり低い場所にできていた。
少し見上げれば、手が届きそうなくらい近い。

だから毎日のように、その成長を見ることができた。


困ったこともある。

ツバメといえば、フンだ。
巣の下は、どうしても汚れる。

けれど、掃除を担当している方が、巣の下の地面にシートを貼って、汚れたら張り替えるという方法をしていた。

「賢い……!その手があったか」と思った。

何年もツバメと格闘してきたけれど、こういう共存の仕方もあるんだな、と感心した。


一ヶ月半ほどで最初の子たちが巣立った。
これで終わりだと思っていた。

ところが、間もなくして、一羽のツバメがまた巣に入っているのが見えた。

「うまく飛べなくて、戻ってきたのかな」
そう思っていた。

けれど、違った。
なんと、二組目の家族だった。
まさかの二組目。

新築のお家の居抜き物件。
巣はすでに完成していて、立地も最高。

人間から見れば、かなり恵まれた環境だったと思う。
けれど、二組目が子育てを始める頃には、暑さが一気に厳しくなっていた。

ヒナたちは、なかなか大きくならない。あまり鳴かない。
巣の中で、ぐったりしているように見えた。

頭をうなだれている姿を見ると、
「ちゃんと育つのかな」と心配になった。

それでも、2〜3週間ほどすると。
いつの間にか、急に立派な鳥の形になっていた。

そういえば、ツバメを見ると思い出す子がいる。
何年も前、ドラッグストアに巣を作ったツバメだ。

巣を作ったときは、まだお店が19時閉店だった。
ところが、巣が完成したあとに営業時間が24時までになった。

夜になっても店の明かりが消えない。
明るすぎる環境がストレスだったのかもしれない。

そのツバメは、どんどん毛がボサボサになっていった。
「ハゲ散らかしてる……」

ちょっと笑ってしまったけれど、考えたら可哀想だった。
結局、そのときは子どももできなかったようだった。

ツバメにとって、巣を作る場所は、ただ「雨風をしのげればいい」というものではないみたいだった。

明るさや暑さ、人間の生活音。
夜は安心して眠れる、子育てができる場所が必要なのだ。

だから今年、暑さの中でぐったりしている二組目のヒナを見たときも、少し心配になった。

ちゃんと育ってくれますように。
そう思いながら、毎日巣を見上げていた。

今回はちゃんと育ってくれてよかった。


二組目ともなると、毎日見慣れてきた。
すると、だんだん、それぞれの違いが分かるようになった。

自我が強そうな子。
早く飛び立とうとしている子。
よくおしゃべりする子。
少し引きこもりがちな子。

同じ巣で育っているのに、ちゃんと個性がある。

そして、その個性の通りの順番で
日替わりで、一羽ずつ巣から減っていった。

昼間は飛ぶ練習をして、
暗くなる前には、また巣に戻ってくる。
そして、みんなで横並びになって眠る。

その姿を見るのが、いつの間にか楽しみになっていた。


ある朝、目の前をツバメたちが気持ちよさそうに飛んでいた。

まるで、
「見てみて! 飛べるようになったよ」とでも言うみたいに。
すっと飛んでいって、また戻ってくる。

おしゃべりする子もいた。
こちらが話しかけると、返事をしているように見えた。
もちろん、本当は何を言っているのか分からない。

それでも、毎日話しかけていると、なんとなく会話しているような気持ちになれた。

可愛いなぁ。
ツバメって、こんなに可愛かったんだ。

最初はあんなに「迷惑だから巣を作らないでほしい」と思っていたのに。
毎日見ていると、いつの間にか愛着が湧いてしまうものなのだなぁ。


そろそろ、いつ戻ってこなくなってもおかしくない。
巣立ってしまったら、もう会えないかもしれない。

ツバメの寿命は、一般的に長くても数年程度と言われている。
この子たちが来年また戻ってくるのかも分からない。

だから、今回はちゃんと成長を見届けてあげられて良かったと思う。

最初は、
「巣を作らないでほしい」と思っていた。

それが最後には、
「元気に飛んでいってね」と思っている。

人の考えって、意外と変わるんだな。


お店のある建物だから、来年はまた、ツバメが巣を作らないようにすると思う。
掃除も大変だし、お店を営む以上、衛生面でそうしたほうがいい。
だから、きっとツバメたちとは、これでお別れ。

それでも。
ツバメが飛ぶ季節になるたびに、今年見届けた子たちのことを思い出すだろう。

宇宙人みたいだった小さなヒナ。
横一列に並んでいた姿。
暑さに耐えながら、ぐったりしていた子たち。

少しずつ飛べるようになって。
一羽、また一羽と巣を離れていった。

最後には、みんなで嬉しそうに空へ飛んでいった。

あんなに近くにいた小さな命が、
いつの間にか、自分の翼で遠くへ行ってしまう。

成長って、そういうことなのかもしれない。
嬉しいようで、寂しいようで。

見送る側にできるのは、
ただ、「元気でね」と見上げることくらいだ。

今年の夏。
私たちは、ツバメの成長を最後まで見届けた。


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凪瀬 紬 | 観測記録作家 迷ったりこじらせたりしながら、それでも生存してきた記録です。 「もう少し読んでみたいな」と思ったら、気が向いたときにチップで応援してもらえたら嬉しいです。