悪魔先輩に捧ぐ本気の仮装パーティー
僕には、公私ともにお世話になっている悪魔先輩がいる。
悪魔先輩は週末、知り合いのサウンドバーでたまにバイトをしていて、時たま後輩の予定を勝手に決めてくる。
(本当に平成の時代はご機嫌ですよね)
そんな悪魔先輩から、また急な無茶振り依頼が来た。
「今度、仮装パーティーやるから、ボイオもマストで参加な」
「仮装パーティーのチケットノルマ売ったら、お小遣いになるけど、どうする?」
「あー、大丈夫です」
過去にその甘い蜜を吸いにいった同士が、ノルマを達成出来なくてガン詰めされているのを見ているので、当たり前のように甘い誘惑は断った。
どうせやるなら、誰とも被らないような仮装がしたいなぁ。
なんかないかなぁ。
そんなことを、仕事も上の空で考えていた。
僕はいつでも、意味のないことに思考を使うのは得意でした。
そして、カミナリに撃たれたように思いついた。
よし、女装しよう。
大したことないと思いますよね。
そうです。
ただ、やりたかったんです。
当時仲良くしていた女友達と、本格的にやりました。
金額は、ジョークにしてはかなり投資しました。
暗いから見えないのに、すね毛も脇毛も腕毛も、見える部分はすべて剃毛。
金髪のウイッグも買い、服もトレンドの物がいいとこだわり、友達と買いに行った。
そこでは、その友達とのせめぎ合いが繰り広げられました。
「いや、絶対試着した方がいい」
「いや、恥ずかしいじゃん!」
「着れんかったらどうするの?」
こんな押し問答が繰り広げられ、店員さんからも怪訝な奴だなといった視線を感じていた。
そして友達が、
「私じゃなくて、こいつが試着します」と言う。
店員さんから鋭い視線を感じ、心が少し折れながら、モジモジと試着室へ向かった。
サイズはピッタリ。
しかし案の定、友達はおろか、店員さんまでヘンテコな姿に笑いが止まらない。
こんなことあっていいのか?
日本にはおもてなし文化があるんじゃないのか?
自分で選んだ道なのに、本気になるということは、茨の道でした。
当日は、買った服を持参していつもの美容院へ。
ここでも店員さんが終始ヘラヘラしながら、新人さんの練習台になって僕をメイクをしてくれた。
こうしてボイオからボイコへと生まれ変わった。
完成して着替えたボイコを見て、美容院の方々がほぼ全員集まり、僕をセンターにして集合写真まで撮影した。
この時代、SNSが今より活発ではなかったと思うので、デジタルタトゥーも薄めだと信じています。
準備万端でバッチリメイクと衣装で友達を車で迎えに行く。
ピンポンを鳴らす。
出てきた友達は
「ボイコ可愛いじゃん! いこうぜ」
そう言われ、軽いカチューシャみたいなものをつけただけの、ぬるいコスプレ協力者の友達と、女2人(1人は心と体は男)で、悪魔先輩がバーテンをやっている店舗内へ潜入することができた。
暗がりの中、友達と乾杯。
自分が女になっていることも忘れて、楽しく談笑していた。
すると、ようやく僕らの存在に気づいた悪魔先輩が、僕には見せたことのない表情で話しかけてきた。
甘い顔してるなぁ、悪魔先輩。
どうしたんだろう?
僕の友達は、笑いを堪えるのに必死になっている。
「あれ? お姉さん、見ない顔じゃん。今日はどこから来たの?」
ん?
ナンパしてんのか? 悪魔先輩。
僕を?
あー、そうだった。
僕は女になっているんだった。
思い切り野太い声で驚かせてやった。
「悪魔先輩、僕ですよ!」
RPGの村人ぐらい「うわーー!」と声を出して驚いている先輩の顔を初めて見て、僕たちは腹を抱えて笑っていた。
もちろん、僕だけは肩パンを食らった。
暗がりで、
「アイツ、女に手を出したか」
と、他のスタッフも近づいてきた。
怒られそうになっている悪魔先輩を見て、二度笑えた。
確か、このパーティーでナースの格好をしていたエリさんと悪魔先輩は仲良くなって、後日の「地獄の晩餐会」みたいな話につながったんだったかな?
とりあえず、そこに行くには、この話は避けて通れない。
悪魔先輩、こんなんで良きですか?
つづく。

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