盛られた記憶――業を受け止める地下:革命の歴史 Vol.25.2
MC: アイ、ユウ
街が眠っているあいだも、
地下の川は、東へ流れていた。
「昔のヨーロッパ」
雨が上がった午後、ユウは傘を畳みながら編集部へ入ってきた。濡れた靴底をマットへ押しつけ、そのままスマートフォンの画面をアイへ向ける。
ユウ:
昔のヨーロッパでは、上の階から汚物を窓の外へ捨てていた。
だから、踏まないためにハイヒールが生まれて、頭から被らないように日傘が生まれたらしいです。
アイ:
ずいぶん無駄のない発明ね。
ユウ:
やっぱり有名な話なんですか。
アイ:
その前に聞いていい?
その「昔」は何世紀で、「ヨーロッパ」はどの街なのかしら。
ユウは画面を見直した。中世らしい石造りの街と、裾の長いドレスを着た女性のイラストが添えられている。
ユウ:
書いていません。「中世ヨーロッパ」とだけです。
アイ:
長い時間と広い土地を一つの言葉へ入れると、本来は別々だった話を、きれいな一つの物語にできるの。
【ちなみに】
近世ロンドンで、便器の中身が路上へ捨てられたことはあった。ただし、排泄物の行き先は路上だけではない。家の下や裏庭の汚水溜め、排水溝、川などが使われ、汚水溜めをさらう「ナイトマン」と呼ばれる人々もいた。仕組みは時代、都市、階層によって異なる。
一方、かかとの高い靴は西アジアの乗馬靴との関係が指摘され、ヨーロッパでは16世紀末以降に取り入れられた。日傘も紀元前9世紀のアッシリアの浮彫にすでに描かれている。どちらも「路上の汚物を避けるために発明された」とする根拠にはならない。
ユウ:
では、全部作り話なんですか。
アイ:
いいえ。
窓から捨てられた汚物も、不衛生な街路もあった。ただ、そこへ靴と日傘の歴史を継ぎ足して、一つの原因と結果にしたのね。
ユウ:
火のないところに煙が立ったわけではない。
アイ:
でも、その煙が全部、同じ火から出たとも限らないわ。
ユウは傘を壁へ立てかけた。
ユウ:
それなら、本当のロンドンでは、汚物をどうしていたんですか。
家の下に置いておく
アイ:
最初から巨大な下水道があったわけではないわ。人の排泄物は、家の下や裏庭に掘られた汚水溜めへ入れられたの。
ユウ:
家の下に、ずっと置いておくんですか。
アイ:
いっぱいになれば、夜に人がさらって運び出す。農地の肥料として売られることもあったわ。
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