ゆるしの愛とゆるさぬ愛 #12「愛を灯す聖火」――第4章:盲目の聖者たち
Laed:ユウ
📚マガジン:ゆるしの愛とゆるさぬ愛
システムがもたらした絶望の果てで、最後に書き残されたのは、不完全な人間たちが灯した、たった一つの愛の記憶だった。
愛を灯す聖火
「先生、結局、宗教って何のためにあるんですか?」
誰もいなくなった夕暮れの教室。最後に残った生徒が、ぽつりと呟いた。
「神様のために戦争して、正義のために人が殺されて……。
最初からそんなもの無ければ、平和だったんじゃないですか?」
「……そうだね。本当に、何のためにあるんだろうね」
私は教卓の上の『銀のインク壺』を手に取った。
金属の冷たい表面には、千年を超える時間の中で刻まれた無数の傷が走っている。指先でなぞると、ザイドの指の跡が、ハリードの爪痕が、ファーリスの溜息が、アミーンの涙が、まだそこに残っているような気がした。
祈った人もいた。誰かを傷つけた人もいた。笑った人も、赦そうともがいた人もいた。
この小さな壺は、そのすべてを黙って見てきた。
「この長く過酷な旅の終着点――最後の記憶の底へ、ダイブしよう」
エルサレム奪還から数年後。
あの日を境に、聖地から争いが消えたわけではなかった。遠くでは再び軍勢が動き、人々は新しい戦争の気配に怯えている。
それでも、1187年のあの日、エルサレムでは流されなかった血があった。
年老いた従軍書記官アミーンは、薄暗い自室の机に向かい、最後の一枚となった羊皮紙を広げていた。
傍らに置かれた銀のインク壺はすっかり黒ずみ、底にはもう、わずかなインクしか残されていない。
彼の一族が何百年にもわたって書き残してきたものを、アミーンは静かに思い返した。
何も持たない人々が、暗闇の砂漠で同じ祈りを口にした夜。その祈りは人と人を結び、共同体となり、やがて法や国家という大きな仕組みへ姿を変えていった。
人間を守るために生まれたはずの仕組みは、大きくなるにつれて「何が正しいか」を決めるようになった。そしていつしか、人間の方が自分たちの作った正しさに縛られ、その正しさの名のもとに、別の誰かを傷つけるようになっていった。
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