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もし君に、言葉があったなら――言葉を持たない知性 4Days/Day4

言葉を持たない知性 4Days
MC:ユウ

▶️摂理だけでは割り切れない /Day3

もし君に、言葉があったなら。
その痛みを、言葉にしてほしい。


前の患者を見送り、診察室へ戻ろうとした相沢の背中に、すれ違った動物看護師が明るい声をかけた。

「ホント先生、動物好きですよねぇ」

「まぁね」

カルテから目を離さず、相沢は力なく笑った。

「言ったことなかったっけ。ここは天国で、地獄だって」

「天国で、地獄?」

「大好きな動物と毎日触れ合える。
 ……だけど、同じくらい、
彼らの『痛み』も見なきゃいけないからね」

診察室に入ると、ひんやりとしたステンレスの診察台の上で、五歳になるラブラドールのムギが小さく丸まっていた。原因不明の慢性的な炎症。治療を続けているものの、痛みが強く出る日がある。

「いつもより、すごく辛そうで……。
 たまらず、連れてきてしまいました」

少し離れた丸椅子に座る恵子が、不安げに両手を握りしめている。

相沢は静かにうなずき、ムギの背中をそっと撫でた。小刻みに震える筋肉の緊張が、手袋越しにも伝わってくる。

痛いことは分かる。でも、どのくらい痛いのか。どんなふうに痛いのか。何をしてほしいのか。そこから先になると、相沢には分からなかった。


――もし君に、言葉があったなら。


相沢は、診察台の横に置かれた黒い機材へ目をやった。

数日前から院内で試験運用が始まった、動物の状態を解析するシステムだった。鳴き声や姿勢、生体情報などを読み取り、その結果を人間が理解しやすい形へ変換する。

まだ診断を任せられるようなものではない。あくまで補助的な実証機だ。
相沢はムギの首にセンサー付きのカラーを巻き、モニターを起動した。

無機質な駆動音が小さく鳴り、黒い画面に白い文字が浮かんだ。
『いたい』

しばらくして、もう一行。
『こわい』

そして、
『ここに、いて』

恵子が小さく息を呑んだ。

「……これって、先生」

「ムギの言葉……と言いたいところですが」
相沢は画面を見たまま答えた。

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