鏡の外の白雪姫――隣のグリム童話 4Days/Day3
担当MC:ユウ
鏡が怖いのは、本当のことを言うからじゃない。見ていないあいだも、向こう側でこちらを探しているからだ。
「今日は、白雪姫です」
「どくりんご?」
「今日は、鏡の方がよく出てくるよ」
「まほうのかがみ?」
「うん。先生のポケットにも入ってるやつ」
鏡の外の白雪姫
著:黒戸聖
朝、目が覚めてまずすることは、顔を洗うことじゃない。雪那は布団の中で、スマホの「MIRROR」を開く。
このアプリは、Xや動画サイトなど、あらゆるプラットフォームのエンゲージメントを吸い上げ、ユーザーの『総合影響力スコア』を算出する。
起動するとまずインカメラが立ち上がり、画面の中の自分の寝起きの顔の上に、今日のスコアが数字となって冷たく浮かび上がる。
昨夜寝る前より、雪那のスコアはまた上がっていた。大台の1万に届くのも時間の問題だ。
「おはよー、みんな。昨日の新しい動画、
見てくれたかな?」
雪那が画面に向かって呟くと、音声認識システムが即座に反応し、顔の横に昨夜の動画へのリンクがポップアップの吹き出しとなって現れる。
「……よかったじゃない」
キッチンから、茉里の声がした。
茉里は、雪那の父が再婚した相手だった。だがSNSの中では、その関係は伏せられ、雪那は茉里の「妹分」として売り出されていた。仕事でほとんど家にいない父に代わり、茉里が事務所の代表を務めている。
茉里は、SNSの黎明期から数字だけでトップインフルエンサーにまで上り詰めた女だった。テレビにも雑誌にも出ない。彼女の美しさと価値は、すべてこの手のひらの画面の中だけで作られていた。
「妹分」として始まった雪那のスコアは、いつの間にか、茉里を追い抜いていた。
優しい笑顔のままランキングを見つめる茉里の指先だけが、血の気が引くほど白くなっていた。
数週間後、雪那はある大型ドラマの主演に急遽抜擢された。表向きは「プロデューサーの大抜擢」と報じられたが、事実は違う。元々の主演女優に、本人がまだ公表していない妊娠と体調上の事情が分かり、雪那が急遽その穴を埋めただけだった。
だが、その抜擢が発表された翌朝。
『MIRROR』が雪那の顔の上に映し出したのは、見たこともない桁に跳ね上がったエンゲージメントと、画面を埋め尽くす真っ赤な「Negative(悪意)」のインジケーターだった。
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