アラ還のぼやき 第二章 Vol.16|あの日のお前に、一つだけ言うとくわ
毎度おおきに。
今日は、若い頃のわてに少し話しかけてみようと思います。
手紙みたいなもんですな。
読んでくれるはずもありませんけど。
*
元気にやってるか。
いや、今頃はそんな余裕ないか。
自信満々で入った百貨店を辞めるかどうか、一人で悩んどる頃やな。
あの頃は、先のことなんか何も見えへんかった。
毎日よう頑張っとるな。
まずは、それを言うとくわ。
お前、自分で思てる以上に気ぃ張っとるで。
仕事で失敗したらどうしようとか、上司にどう思われてるんやろとか、そんなことばっかり考えてたな。
周りから見たら、
普通に働いてる若い社員やったと思う。
本人は結構必死やった。
百貨店では一日走り回っても、
売上がほとんど立たん日も多かったな。
怒られて、情けなくて、
「俺、この仕事向いてへんのかな」
と思たこともあった。
そのあと転職した税理士事務所では、数字を間違えて青ざめた。
今でも覚えてるやろ。
安心せえ。
三十年以上経った今でも、わては覚えとる。
たぶん周りは、とっくに忘れてるけどな。
お前は昔から、そういうところがある。
失敗した本人だけが、いつまでも覚えてる。
損な性分や。
それから、お前は何でも自分で何とかしようとする。
人に頼るのが、あんまり上手やなかった。
助けてもらうくらいなら、
多少しんどくても自分でやった方がええ。
そんなふうに思てたんやろ。
今やったら分かる。
人に頼ったくらいで、値打ちが下がるわけやない。
会社員を三十年以上やってると、自分一人でできることなんか、たかが知れてると思うようになる。
当時のお前に言うても、
たぶん聞かへんやろけどな。
まあ、ええ。
あの頃は、あれくらい必死やったから前へ進めたところもある。
百貨店を辞めて税理士事務所に移り、そこも結局辞めた。そのたびに、これでよかったんやろかと思てたな。
今の会社に三十年以上おるなんて、
あの頃のお前には想像もできへんやろ。
人生いうのは、そんなもんらしい。
あとから見たら一本につながってるように見えるけど、歩いてる最中は、次の角を曲がった先すら分からん。
わても今になって、そう思うだけや。
そやから、一つだけ言うとくわ。
そんなに急がんでええ。
お前は早く何者かになりたくて、
周りがどんどん先へ行くような気がして焦ってる。
三十年後から見たら、
そんなに急ぐ必要はなかった。
どうせ思い通りにならんことは山ほど出てくるし、
思てもみいひんかったところへ行くこともある。
それでも、案外なんとかなる。
五十八歳のわてが言うんやから、
少しくらい信用してもええやろ。
今のお前は、三十年先の心配までせんでええ。
今日一日、何とか終わったらそれでええ。
明日になったら、また明日のことを考えたらええ。
そんな毎日で、わてはもう五十八や。
相変わらず会社員やってるで。
頭はだいぶ、さびしくなってもうたけどな。
ほな、さいなら。
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