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アラ還のぼやき 第二章 Vol.16|あの日のお前に、一つだけ言うとくわ

毎度おおきに。

今日は、若い頃のわてに少し話しかけてみようと思います。

手紙みたいなもんですな。

読んでくれるはずもありませんけど。

元気にやってるか。

いや、今頃はそんな余裕ないか。

自信満々で入った百貨店を辞めるかどうか、一人で悩んどる頃やな。

あの頃は、先のことなんか何も見えへんかった。

毎日よう頑張っとるな。
まずは、それを言うとくわ。

お前、自分で思てる以上に気ぃ張っとるで。

仕事で失敗したらどうしようとか、上司にどう思われてるんやろとか、そんなことばっかり考えてたな。

周りから見たら、
普通に働いてる若い社員やったと思う。

本人は結構必死やった。

百貨店では一日走り回っても、
売上がほとんど立たん日も多かったな。

怒られて、情けなくて、

「俺、この仕事向いてへんのかな」

と思たこともあった。

そのあと転職した税理士事務所では、数字を間違えて青ざめた。

今でも覚えてるやろ。

安心せえ。

三十年以上経った今でも、わては覚えとる。

たぶん周りは、とっくに忘れてるけどな。

お前は昔から、そういうところがある。

失敗した本人だけが、いつまでも覚えてる。

損な性分や。

それから、お前は何でも自分で何とかしようとする。

人に頼るのが、あんまり上手やなかった。

助けてもらうくらいなら、
多少しんどくても自分でやった方がええ。

そんなふうに思てたんやろ。

今やったら分かる。

人に頼ったくらいで、値打ちが下がるわけやない。

会社員を三十年以上やってると、自分一人でできることなんか、たかが知れてると思うようになる。

当時のお前に言うても、
たぶん聞かへんやろけどな。

まあ、ええ。

あの頃は、あれくらい必死やったから前へ進めたところもある。

百貨店を辞めて税理士事務所に移り、そこも結局辞めた。そのたびに、これでよかったんやろかと思てたな。

今の会社に三十年以上おるなんて、
あの頃のお前には想像もできへんやろ。

人生いうのは、そんなもんらしい。

あとから見たら一本につながってるように見えるけど、歩いてる最中は、次の角を曲がった先すら分からん。

わても今になって、そう思うだけや。

そやから、一つだけ言うとくわ。

そんなに急がんでええ。

お前は早く何者かになりたくて、
周りがどんどん先へ行くような気がして焦ってる。

三十年後から見たら、
そんなに急ぐ必要はなかった。

どうせ思い通りにならんことは山ほど出てくるし、
思てもみいひんかったところへ行くこともある。

それでも、案外なんとかなる。

五十八歳のわてが言うんやから、
少しくらい信用してもええやろ。

今のお前は、三十年先の心配までせんでええ。
今日一日、何とか終わったらそれでええ。
明日になったら、また明日のことを考えたらええ。

そんな毎日で、わてはもう五十八や。
相変わらず会社員やってるで。

頭はだいぶ、さびしくなってもうたけどな。

ほな、さいなら。


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