平手打ちがくれたもの
「何時やと思っとるんじゃ〜」
パシッ。
人生でたった一度。
きっと最初で最後だと思う、平手打ちをくらった。
大好きな父から…
高校生だった私には、23時の門限があった。
その日はバイトが終わったあと、暗くなった駐車場で、バイト仲間たちと話をしていた。
23時が近づいている。
帰らないとまずい。
そんなことは、わかっていた。
でも、この楽しい空気の中で「先に帰る」と言い出せなかった。
時計を気にしながら、内心ドキドキしていた。
そのとき、一台の車がこちらに向かってくる。
ヘッドライトが、私たちを照らした。
眩しくて、誰の車なのかわからない。
車はどんどん近づいてくる。
そして、すぐ目の前でライトが消えた。
その瞬間、体が固まった。
父だった。
車から降りてきた父は、何も言わず私の手を引っ張り、そのまま車に乗せた。
家に着くなりだった。
父の手が、私の頬に飛んできたのは。
横にいた母も驚いていた。
まさか、あの優しい父が娘に手をあげるなんて。
父は、この世にこんなに優しい人がいるのかと思うほど、優しくて思いやりのある人だった。
私はずっと思っていた。
「お母さんは幸せやなぁ。私も、お父さんみたいな人と結婚したい」
そんな父からの平手打ちだった。
門限を破ったのは、たった1時間。
「たった1時間やん。叩くことないやん」
申し訳なさと同時に、父への憎さもあった。
でも、父にとっては「たった1時間」ではなかったのだろう。
それまで一度も門限を破ったことのない娘が、夜になっても帰ってこない。
父はタクシーの運転手だった。
夜の街の怖さを、私よりずっと知っていたのかもしれない。
何かあったんじゃないか。
事故に遭ったんじゃないか。
怖い目に遭っているんじゃないか。
私にとっては、友達と楽しく話していただけの1時間。
父にとっては、娘の無事がわからない長い1時間だったのだろう。
あの夜、痛かったのは私の頬だけではなかったのかもしれない。
そんなことを、今になって思う。
私は今、夜中になっても帰ってこない娘を待つことが多くなった。
時計を何度も見る。
LINEの画面とにらめっこする。
「大丈夫なんやろか」
そう思いながら待っていると、時間がやけに長く感じる。
そんな夜、ふとあの夜の父を思い出す。
あのときの父も、こんな気持ちだったのかな?
そう思うと、あの平手打ちの意味が少しだけ違って見えてくる。
息子の不登校で、娘にはたくさん我慢をさせてきた。
もっと娘を見てあげればよかった。
もっと話を聞いてあげればよかった。
そんな後ろめたさが、今も私の中に残っている。
だから私は、娘を強く叱ることが怖い。
「何時やと思ってるん」
そう言うことさえ、ためらってしまう。
強く叱ったら、娘との関係が壊れてしまうんじゃないか。
もう帰ってこなくなるんじゃないか。
そんなことを考えてしまう。
父は、私が無事に帰ってくることを願って手をあげた。
私は、娘との関係が壊れないことを願って叱れずにいる。
その違いに気づいたとき、
私は娘を信じれているのだろうか?
それとも、関係が壊れるのを恐れているだけなのだろうか。
54歳になった今。
私はようやく、あの夜の父の気持ちを想像できるようになった。
あのときは、頬の痛みしか感じなかった。
「たった1時間やん」
そう思っていた。
でも今は、その1時間を待っていた父の心を思う。
帰ってこない娘への不安。
何かあったのではないかという恐怖。
無事でいてほしいという願い。
あの平手打ちは、そんな父の感情が、行き場を失って手のひらになったものだったのかもしれない。
愛の深さは、目には見えない。
そのときにはわからないこともある。
何十年も経って、ようやく気づくこともある。
だから今、娘を待ちながら考える。
私はどうすればいいんだろう?
父のように叱ることなのか。
何も言わず、待つことなのか。
娘を信じて、見守ることなのか。
それとも、その全部なのか。
まだ、答えは出ない。
ただ、夜が更けていく中で娘の帰りを待ちながら、ひとつだけ思う。
あの夜、父もこうして私を待っていたのだろう。
そう思うと、あの日の平手打ちは、
温かい記憶に変わった。
この度の記事はマイキーさんの企画のバトンを受けて書かせて頂きました。
私にバトンを渡してくださったのは
チリツモと言えばこの方
みむらさん
まさか、憧れと尊敬のみむらさんからバトンを頂けるなんてびっくりでしたが、とても光栄で嬉しくて喜んで書かせて頂きました。
バトンを受けた記事はこちら
「ひ」から始まるタイトルと言うことで、今回の記事となりました。
そして私がバトンをお渡ししたいのは
こちらも尊敬と憧れの存在
いさなさん
いさなさんのエッセイが大好きです。
特に好きな記事はこちら
いさなさん
勝手にバトンお渡しする事お許しください🙇♀️
とてもお忙しいと思いますので、どうぞご無理のない様にお願いします🙇♀️
もしバトン受け取って頂けるなら
私のタイトルの末字「の」から始まるタイトルでお願いします。
マイキーさん、みむらさん
貴重な機会を頂きありがとうございました。
お陰で滞っていた記事を書く事ができました。
この素敵な企画が広まります様、陰ながら応援しております。
