Photo by
x4a4n
かみ合わない人、なぜか人気 観察記録 No.19 美容院の予約電話にて
かみ合わない人、なぜか人気
観察記録 No.19 美容院の予約電話にて
受付が電話に出た。
「お電話ありがとうございます。ご予約でしょうか?」
その人は答えた。
「来週です。」
受付は一瞬、黙った。
「……来週のご予約ですね。」
「はい。」
「ご希望のお日にちはございますか?」
その人はカレンダーを見た。
「雨です。」
受付は、しばらく何も言わなかった。
やがて、声の調子を少し落とした。
「……雨の日がお好みなんですね。」
「違います。」
「では、雨の日は避けたいということでしょうか。」
「分かりません。」
受付はメモを取りながら頷いた。
「なるほど。天候に左右されない日をご希望、と。」
その人は困った。
「髪を切りたいだけなんですけど。」
受付の女性は、静かに笑った。
「はい。分かっています。」
何も分かっていない顔だった。
「では、来週の火曜日はいかがでしょう?」
「火曜日です。」
受付の女性の手が止まった。
「……以前も、火曜日という言葉を大切にされていましたよね。」
その人は覚えていなかった。
ただ、火曜日だった。
「大丈夫です。」
電話を切ったあと、受付の女性は同僚に言った。
「この方、すごく独特な時間感覚を持ってる。」
同僚は頷いた。
「何かを言葉にする前に、もう分かってる人なのかもね。」
その人は電話を置いて、カレンダーを見た。
火曜日まで、あと三日だった。
人気度:+74(美容院のスタッフ間で「火曜日の人」と呼ばれるようになる。本人は、火曜日に髪を切る予定が入ったことだけを覚えている。)
