月までの散歩
よる、少女は窓から月を見ていた。
少女「ねえ、凪」
凪「うん」
少女「月って、歩いて行けるのかな」
凪はしばらく月を眺めた。
凪「歩いて行ってみる?」
少女「……行けるの?」
凪「月が道を作ってくれたらね」
少女は急いで靴を履いた。
外へ出ると、地面に月明かりが細長く伸びている。
少女「これが道?」
凪「そうかもしれない」
少女「月まで続いてる?」
凪「歩いてみないと分からないよ」
二人は歩き始める。
草むらを抜ける。
小さな橋を渡る。
森を抜ける。
いつもの道なのに、夜になると知らない場所みたいだった。
少女「凪」
凪「なに?」
少女「月って、ずっとついてくるね」
凪「うん」
少女「私たちが歩いてるのに」
凪「月も歩いてるんだよ」
少女「え?」
凪は空を指差す。
凪「君が一歩歩くたびに、月も一歩歩いてる」
少女は立ち止まった。
月も、止まったように見えた。
少女「……じゃあ、追いつけないじゃん」
凪「そうだね」
少女「ずるい」
凪「月は昔からそうなんだよ」
二人はまた歩く。
だんだん道が白くなる。
草も。
木も。
二人の影も。
やがて少女は気づく。
少女「……あれ?」
凪「どうしたの?」
少女「足元がない」
二人の足元から、道が消えていた。
その代わり、白い月明かりが空へ向かって伸びている。
少女「凪……」
凪「大丈夫」
凪が手を差し出す。
凪「月が、こっちへ来てほしいって」
少女は凪の手を握る。
一歩。
もう一歩。
歩くたびに、地面が少しずつ空へ近づいていく。
雲を抜ける。
星の間を通る。
そして――
少女は月の上に立った。
少女「……着いた」
凪「うん」
少女はしゃがんで、月の地面を触る。
少女「月って、冷たいね」
凪「夜だからね」
少女「誰か住んでるかな?」
凪は遠くを見る。
凪「いるかもしれないよ」
少女「どこ?」
凪「月の裏側」
少女「見に行こう!」
凪「うん」
少女は走り出す。
凪が後ろから呼ぶ。
凪「転ばないでね」
少女「月で転んだらどうなるの?」
凪「たぶん、星のところまで転がっていく」
少女「それ面白そう!」
凪「……そう言うと思った」
二人の笑い声が、月の上に響く。
そして月の裏側には――
誰にも見つかったことのない、小さな家が一軒だけ建っていた。
煙突から、白い煙が出ている。
少女「……誰かいる」
凪「うん」
少女「行ってみよう」
凪「行こうか」
月の夜は、まだ始まったばかりだった。
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