形だけの会話
あるマーケティング本の表紙には、こう書かれています。
世界一効率的に億万長者になる方法
ところが目次を開くと、こんな項目が出てきます。
買ってくれと訴えるよりカンバセーション(会話)に引き込む
ずいぶん印象が違います。
片方は「どうすれば大きく売れるか」。もう片方は「まず相手との会話に入れ」。誤植ではありません。
どちらも、同じ本に意図して書かれています。
プロダクトローンチと聞いて、何を思い浮かべるか
日本で「プロダクトローンチ」と聞くと、
無料動画を何本か見せる。
見込み客を「教育」する。
期待を高める。
期間限定で募集する。
最後に高額商品を販売する。
そんなイメージを持つ人も多いと思います。
この売り方を嫌う人もいます。
ただ、原典をたどってみると、少し様子が違います。
プロダクトローンチ・フォーミュラ(PLF)を体系化したジェフ・ウォーカー(Jeff Walker)は、現在も、「3本の動画を出して、そのあと売る方法」と理解されるのは違う、と繰り返し説明しています。
大事なのは動画の本数ではなく、sequence(順序)。
価値を届け、信頼をつくり、自然に意思決定へ進んでもらう一連の流れだという説明です。
そして、その中にはもう一つ重要な工程があります。
ウォーカーが「Launch Conversation」と呼ぶものです。
見込み客のコメントや質問を読む。
何に困っているのかを聞く。
どこに引っかかっているのかを知る。
その反応によって、オファーやコピーを変える。
本人は、自分のローンチで寄せられる数百、時には数千のコメントを読み、そこからメッセージを調整すると説明しています。
かなり単純化していますが、原型には、
Conversation(会話) → Content(コンテンツ) → Offer(オファー)
という工程をたどります。
抜け落ちたのは、たった一つの工程だった
ここで少し見え方が変わります。
教育もあります。
ストーリーもあります。
希少性もあります。
締切もあります。
だから、昔は顧客との会話だったのに、途中から教育する方法になった。というわけでもなさそうです。
教育は最初からあった。違うのは、その前です。
何を教えるかを決める前に、相手に聞く。
ここが落ちると、
Conversation → Content → Offer
が、
Lead → Education → Offer
になります。
たった一工程です。
でも、顧客の役割は大きく変わります。
前者では、顧客は答えをくれる人です。
後者では、顧客は教育されて購入へ進む人になります。
なぜ「聞く」は最初に消えやすいのか
ここからは、仮説です。
商品を作る。
動画を撮る。
LPを作る。
広告を出す。
発売日を決める。
スタッフを押さえる。
アフィリエイトや広告に先に費用を使う。
こうして先行投資が大きくなるほど、一つ困ることが起きます。
顧客の答えによって、予定を変えにくくなる。
聞いてみたら、「その商品はいらない」と言われるかもしれない。
想定していた悩みと、実際の悩みが違うかもしれない。
価格を変えた方がいいかもしれない。
商品そのものを作り直す必要があるかもしれない。
発売日を延期することになるかもしれない。
でも、すでにお金も時間も使っている。すると、「聞く」より先に、売るものと売り方を固定したくなる。
ここで重要なのは、誰かが不誠実だから、と決めつけないことです。
むしろ、先に作り込むほど、聞いた答えを受け入れにくくなる。という構造の問題かもしれません。
ローンチに限った話でもありません。
顧客アンケートを取った。市場調査もした。ヒアリングもした。でも、その時点ですでに商品も価格も広告も決まっていた。
それなら、本当に「聞いた」と言えるのでしょうか。
『ザ・ローンチ』
最初に紹介した本は、ジェフ・ウォーカーの『ザ・ローンチ』です。日本語版は2014年、ダイレクト出版から刊行されました。
副題は、『世界一効率的に億万長者になる方法』です。
一方、その本の目次には、「買ってくれと訴えるよりカンバセーションに引き込む」があります。
さらに2023年の改訂版は、『ザ・ローンチ2.0 高額商品がネットで売れる無敵の公式』というタイトルで販売されています。
ところが目次には、今も「カンバセーションマーケティング」が残っています。
原著の英語版も、最初から「インターネット億万長者の秘密の公式」「オンラインでほぼ何でも売る」といった強い成果訴求を掲げています。
中身では「まず顧客との会話に入れ」と説く本でさえ、最初に見せる言葉では「何が手に入るか」が前に出る。
もちろん、この表紙だけで、その理由までは分かりません。
ただ、「聞くこと」と「成果を約束すること」のどちらが表に出やすいのかを考えるには、妙に象徴的です。
「質問したか」だけでは足りない
では、自分たちの企画ではどうか考えてみます。
最近つくった商品やサービスを、一つ思い出してみる。
作る前に、見込み客へ質問したか。
返ってきた答えによって、オファーを変えたか。
そして、もう一つ。
変えなかったのは、顧客の答えが想定どおりだったからでしょうか。
それとも、
答えを聞く頃には、もう変えられないところまで作り込んでいたからでしょうか。
自分は、ここが一番気になります。
アンケートフォームがあること。
コメント欄があること。
ヒアリングしたこと。
それだけでは、Conversationがあるとは言えません。
聞くというのは、
相手の答えによって、自分の計画が変わる可能性を残すこと
なのかもしれません。
もちろん、先行投資が大きいから「聞く」が消える、とまだ証明できたわけではありません。
先行投資の小さな販売でも同じように会話がなくなるなら、原因は別にあります。
ここまで考えていて、昔の仕事を一つ思い出しました。
あるマーケティングリサーチに関わったとき、「最初に用意した答え」に持っていくための設問設計を求められたことがあります。
アンケートを実施して、回答を集める。でも、結論は最初から決まっている。
今振り返ると、あれも「形だけの会話」だったのでしょう。
顧客に質問するとき、
何を聞くか。
だけではなく、
その答え次第で、何を変えられる状態にしてあるか。
そこまで先に決めておく。
「会話」の工程が本当に残っているかは、この部分できっと分かるでしょう。
