「シニア」って、50代、60代、70代、いつから?
シニア向けのマーケティングに関わる機会がありました。
50代以上。デジタルには少し慎重。健康への関心が高い。新しいものより、慣れたものを好む。
あたりまえですが、実際に接してみると、そんなにきれいに別れるものではありませんでした。
スマホで何でも調べる人がいる。新しいサービスを積極的に試す人もいる。価格をかなり比較する人もいれば、便利なら多少高くても構わないという人もいる。Webでかなり調べているのに、申し込みだけは電話でしたい人もいる。
同じ年代でも、反応はまったく違います。
「シニアにもいろいろな人がいる」と言ってしまえば、それまでです。
でも、マーケティングの仕事として考えるなら、その先があります。
では、自分たちは何を見て、その人を「シニア」と判断していたのだろう。
そこを改めて考えるきっかけになりました。
人を分ける、4つの切り口
マーケティングでは、顧客をいくつかの軸で分けて考えます。
代表的なのが、次の4つです。
まず、デモグラフィック(Demographic)。
年齢、性別、職業、所得、家族構成などです。
「70代女性」、「65歳以上の夫婦世帯」といった分け方です。
次が、ジオグラフィック(Geographic)。
住んでいる地域、都市部か郊外か、気候、商圏など、「どこで暮らしているか」で分けます。
そして、サイコグラフィック(Psychographic)。
価値観、興味、ライフスタイル、考え方などです。
「健康を大切にしている」、「新しいものを試すのが好き」、「自分のことは自分で決めたい」といった違いです。
最後が、ビヘイビア(Behavioral)。
実際の行動です。
何を買ったのか、何回利用したのか、どの案内に反応したのか、Webを見たのか、電話したのか、一度検討して、何か月後に戻ってきたのか。
教科書では、この4つがセグメンテーションの代表的な軸として並びます。
ただ、シニアマーケティングに関わっているうちに、一つ気になることが出てきました。
この4つは、どれが一番役に立つのか?という機能面のことだけではないのではないか。
企画書の最初には、だいたい年齢が出てくる
「ターゲットは65歳以上」、「メイン顧客は70代女性」こうした表現は、とても使いやすい。
年齢や性別は確認しやすく、集計もしやすいからです。
地域も比較的分かりやすい。
アンケートをすれば、価値観もある程度聞けます。
一方、「この人は過去半年で何回来店したか」、「どの案内には反応して、どの案内には反応しなかったか」、「Webを見たあと、どの接点から申し込んだか」を知ろうとすると、記録を続ける必要があります。
少し面倒ですし、外部にリサーチを頼ればコストもかかります。
だからなのか、マーケティングの資料では、手に入りやすいデモグラから人物像を作り始めることがよくあります。
でも、
手に入りやすい情報と、次の反応を考えるのに役立つ情報は、同じとは限りません。
ここは分けて考えたほうがよさそうです。
「スマホを使えるシニア」でも、まだ粗い
たとえば、ある人がスマホをかなり使っていたとします。
検索もする、Googleマップも見る、LINEも使う。
ここまで見れば、「この人はデジタルに強いシニアだ」と分類したくなります。
でも、実際の行動をもう少し追うと、商品についてはWebでかなり調べている。
料金も確認している、口コミも読んでいる。ところが、最後の申し込みだけは電話でする、ということがあります。
これは、「スマホを使える/使えない」だけでは見えません。
情報収集ではデジタルを使う。でも、意思決定の最後では電話を選ぶ。
行動を見ると、ここまで分かれます。
すると施策も変わります。
「シニアだから電話中心にしよう」でもない、「スマホを使うからWebだけで完結させよう」でもない、Webでは十分に調べられるようにして、最後に電話へ移りやすくする。
同じ人を見ていても、使う情報によって打ち手が変わります。
サイコグラも、そのまま信じればいいわけではない
サイコグラは、デモグラより一人ひとりを詳しく見られる感じがします。
「価格より品質を重視する」、「健康に関心がある」、「自立した生活を続けたい」こうした情報があれば、年齢だけを見るより解像度は上がります。
ただし、ここにも注意があります。
人が「自分はこういう人です」と答えることと、実際の場面で何をするかは同じとは限りません。
「価格より品質を重視する」と答えた人が、実際にはかなり価格を比較することもある。
「新しいものに抵抗はない」と言いながら、契約の直前では慣れた方法を選ぶこともある。
これは嘘をついているという話ではありません。
人は、質問されたときの自分と、実際に選ぶ場面の自分が一致するとは限らない。
だから、
サイコグラは「どう考えているか」を知る材料で、ビヘイビアは「実際に何をしたか」を知る材料。
両方が違ったとき、そのズレそのものが情報になります。
DRMでは、「前に何をしたか」を見られる
ここはDRMとかなり相性がいいところです。
DRMでは、反応を記録できます。
広告を見た、クリックした、資料を請求した、問い合わせた、購入した、もう一度買った、しばらく反応しなくなった。
データベースマーケティングで長く使われてきたRFMも、
Recency:最後に購入してからどれくらいか
Frequency:どれくらい頻繁に購入しているか
Monetary:どれくらい購入しているか
という、すべて過去の行動から顧客を見る方法です。
年齢も性別も入っていません。
だからといって、
「デモグラよりビヘイビアのほうが常に優れている」
と言いたいわけではありません。
ただ、次にどう反応するかを考える場面なら、前にどう反応したかを一度見てみる価値は大きい。
DRMには、その材料を自分たちで蓄積できる強みがあります。
もちろん、年齢が本当に重要なこともある
ここまで書くと、「では、年齢なんて見なくていいのでは」となりそうですが、それも違います。
医療や介護では、年齢によって制度上の扱いや利用できる仕組みが変わることがあります。
年齢そのものが商品選択に関係することもあります。
商圏を考えるなら地域は重要です。
若年層と高齢層で、利用している媒体が大きく違う商品もあります。
つまり、どの軸が重要かは、何を判断したいかによって変わります。
年齢が実際に選択肢を変えるなら、デモグラを見る。
地域によって利用条件が違うなら、ジオグラを見る。
価値観に合わせて訴求を考えたいなら、サイコグラを見る。
次の反応を考えたいなら、ビヘイビアを見る。
四つを全部並べれば詳しくなる、というより、
いま決めたいことに対して、どの情報が効いているのかを選ぶ。
そのほうが実務では使いやすいと思います。
「シニアだから」ではなく、反応を比べてみる
シニアマーケティングに関わって、自分が一番怖くなったのは、「シニア」という言葉そのものではありません。
便利だから、そのまま説明に使えてしまうことです。
「シニアだから電話」
「シニアだから健康志向」
「シニアだから価格に慎重」
どれも、それらしく聞こえます。
でも、自分たちが持っているデータで確かめることはできます。
たとえば、65〜74歳と75歳以上で、反応率にどれくらい差があるか。
過去に利用した人と初めての人では、どれくらい違うか。
Webを何度か見ている人と、初回訪問の人ではどうか。
電話経験がある人とない人ではどうか。
比べてみる。
年齢で分けたときに大きく違うなら、年齢を使えばいい。
過去の行動で分けたほうが反応が大きく違うなら、次はそちらを使う。
どの切り口が役に立つかは、最初から決めなくてもいい。
反応を見て、変えればいい。
「シニア」という人は、どこにもいなかった
実際にシニア向けの仕事に関わってみると、
「シニア」という一人の人物像は、やはり見つかりませんでした。
いたのは、
Webで調べて電話をする人。
新しいものをすぐ試す人。
家族に相談してから決める人。
自分一人で決めたい人。
以前利用したときと、今回は違う行動をする人。
でした。
だから、「シニアは多様だ」で終わらせたくありません。
マーケティングでは、どうしても人を分ける必要があります。
問題なのは、ひとを分けることではなく、その分け方が、本当に次の判断に役立っているかを確かめないことなのだと思います。
「70代だから、この訴求」で終わらせず、実際には誰が反応したのかを見る、違っていたら、分け方を変える、DRMなら、その答えを反応から受け取れます。
「シニア」という言葉で表現したとしても、現実にいるひとは、どの切り口なら、実際の反応の違いが見えるのか。
「シニア」という一人の人間は、どこにも存在しません。だからこそ、私たちは「分け方」そのものを更新し続ける必要があります。
決めつけの言葉を捨て、データが示す「生きた行動」に耳を澄ませること。その地道な繰り返しの先にしか、本当に届けたい相手との出会いはないのだと思います。
