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「もう一度送る理由」は、誰が用意する?

メルマガの2通目を書こうとして、手が止まることがあります。

1通目には、言いたいことがあった。でも、次は何を書くのか。

新商品でもあればいい。キャンペーンでもいい。季節の話でもいい。

何か、もう一度メールを送る理由が必要になります。

当たり前のようですが、ここには一つ前提があります。

送る理由は、送る側が用意するもの。

昔のダイレクトメールに、この前提を少し違う形で扱っていた事例があります。

主人公は、ネズミです。


会社に住みついた「夜間責任者」

1986年に刊行された、ダイレクトメール研究者のリチャード・S・ホジソン(Richard S. Hodgson)による『The Greatest Direct Mail Sales Letters of All Time』に、「S. Mouse Letters」という一連のDMが収録されています。

送り主は、クリーブランドのオフィス家具・事務機器会社S. Rose, Inc.。

ただし、手紙を書いているのは社員ではありません。

会社に住みついているネズミ、

S. Mouse。

社員が帰った夜には、自分が「夜間責任者」になるという設定です。

最初の手紙では、夜中に電話を取ったS.マウスが、ファイルキャビネット1万台などという巨大注文を受けます。

ところが、相手の名前も住所も聞き忘れてしまった。

そこで、「昨夜電話をくれたのは、もしかしてあなたですか」と手紙を書く。

その途中には、会社の電話番号も、販売している事務用品の案内も入っています。

署名は、ネズミの足跡です。

商品は、机、椅子、キャビネット、事務機器。

面白さは、商品そのものから来ているわけではありません。


ここから先は、いったん疑っておく

S.マウスについて調べると、派手な成功談が出てきます。

2通目から電話が鳴り始めた。
S.マウス宛てに注文が届いた。
S. Mouse名義の小切手まで届いた。
約4,000人に送られた手紙がコピーされ、さらに広がった。
休眠顧客が戻り、新規顧客も獲得した。

これらは、ホジソンの本に記載されています。

ただし、今回確認できた根拠は、基本的にこの一冊です。

S. Rose社の売上台帳でもなければ、対照群を置いた実験でもありません。

しかも、この本自体が「優れたダイレクトメール」を集めた選集です。

成果を上げたと評価された事例が選ばれている以上、うまくいかなかったユーモアDMは、そもそも選集に残りにくい。

だからこの記事では、S.マウスがどれだけ売上を増やしたかは扱いません。

代わりに、収録されている手紙そのものを調べていきます。


これは一通の広告ではなく、連載だった

S.マウスの手紙は、8通収録されています。そして、前の手紙の設定が次へ続いています。

「なぜ大文字を使わないのか」と聞かれれば、小さな足ではShiftキーと文字キーを同時に押せないから、と答える。

「S. MouseのSは何の略か」という謎を出して、答えを次の手紙へ持ち越す。

猫が会社に来る。

店舗の改装工事を、自分を追い出すための工事だと勘違いする。

前回に出てきた話が、そのまま次回の材料になります。

一通完結の広告ではありません。

しかも毎回、「売ります」、「貸します」、「中古品も買います」、「電話はこちら」という営業情報は、普通に入っています。

広告であることを隠しているわけでもない。

ここで面白いのは、ネズミでもユーモアでもありません。

前の手紙の中に、次の手紙を読む理由が残っている、ということです。


「送る理由」を、前回に作らせる

普通のメルマガなら、「今回は何を送ろう。」と考えます。

新商品。キャンペーン。セール。お知らせ。役立つ情報。

そして送ったら、次回はまたゼロから「なぜ今送るのか」を考える。

連載では、少し違います。

今回の話を書く。

未完結のものを残す。

それが次回の接触理由になる。

S.マウスでいえば、「Sって何の略?」という問いを残した時点で、次の手紙にはすでに一つ仕事があります。

答えを書くことです。

つまり、次回の接触理由を、次回の配信時にゼロから作るのではなく、前回のコンテンツの中に残しておく。

こう見ると、S.マウスは「ネズミを使った面白い広告」というだけではなくなります。

接触の設計として見えてきます。


接触回数より、「同じ刺激」を繰り返すことを見る

単純接触効果について調べると、同じものに繰り返し接すると好意が高まることがありますが、無限に高まり続けるわけではないことがわかりました。

ロバート・ボーンスタイン(Robert F. Bornstein)は1989年、単純接触効果について、それまでの研究をメタ分析しています。

そこで検討されている二要因モデルでは、反復によって刺激に慣れることが好意を高める一方、繰り返しが増えると「tedium(退屈)」が競合し、好意が頭打ちになったり低下したりすると考えます。

もし反応がないという問題の一つが、同じ刺激を繰り返すことによる退屈なら、毎回中身が変わることで解決できるかもしれません。

連載が面白いのは、接触回数を魔法のように増やせるからではありません。

「同じものをもう一度見せる」以外の接触理由を、前回から作りやすい。

連載は、接触を増やしながら内容を変えるための一つの仕組みとして考えられそうです。


ねずみから学べること

S.マウスから学べるのは、ネズミを登場させることでも、面白い文章を書くことでもないのかもしれません。

8通を並べて見ると、もっと単純な仕掛けがあります。

今回の手紙が、次回の手紙の理由をつくっている。

「次は何を送ろう」と悩んだとき、次のネタを探すだけではなく、

終わりに、次回の理由を残せないか。

そう考えてみる。

「もう一度送る理由」は、次回の自分が全部用意しなくてもいいのかもしれません。


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