賛否が分かれそうな広告を出す前の6つの質問
Suicaの新キャラクター候補が発表され、SNSで賛否が分かれています
2026年9月8日に始まったのは、三つの候補から新しいキャラクターを選ぶ投票です。JR東日本は、Suicaが「生活のデバイス」へ進化することに合わせ、生活に寄り添うキャラクターを選んでほしいと説明しています。
なかでも、紫色のうさぎをモチーフにしたB案が目を引きました。SNSでは「毒Suica」という呼び名まで生まれています。
公式の愛称募集はまだ先なのに、受け手の側では、すでに自分たちの言葉で呼び始めている。
企業が用意した制作意図とは違うところから、会話が始まる。この様子を見ると、「少しくらい賛否が分かれたほうが、見つけてもらえる、覚えてもらえるのでは」と考えたくなります。
小さな会社の広告でも、無難なコピーでは埋もれる気がする。でも、強く言えば嫌われるかもしれない。その間で、手が止まることがあります。
ただ、Suicaの話から自社の広告を考えるなら、反応の大きさより先に見たいことがあります。
同じ「嫌だ」でも、理由は違う
今回の反応には、新しいデザインへの好き嫌いだけでなく、ペンギンとの交代そのものを惜しむ声が混ざっています。報道でも、候補への評価と「ペンギンを返して」という声が併せて紹介されています。
「紫色が苦手」と「ペンギンを変えてほしくない」では、否定しているものが違います。前者なら色を変えることで評価が動くかもしれません。後者なら、新案をいくら整えても不満は残るでしょう。賛成と反対の件数だけでは、次に何を直せばよいか分かりません。
広告も同じです。「高いから頼まない」「そのサービスは必要ない」「言い方が不快だから頼みたくない」は、どれも購入しないという結果になります。
しかし、価格を見直す話なのか、届ける相手を変える話なのか、表現を直す話なのかは別です。
反対されたことを、すべて「尖ったから」と片づけると、この違いを取りこぼします。
方針で分かれたのか、言い方で分かれたのか
たとえば、ホームページ制作会社が、価格の安さだけでは競争しない方針を伝えるとします。
最安値での制作はお約束できません。公開後の更新まで、一緒に考える制作会社です。
これを読んで、低コストを最優先する人が候補から外すことはあるでしょう。一方、公開したあとに作りっぱなしで放置してしまった経験がある人は、詳しく聞きたくなるかもしれません。
ここでは、何にお金を払いたいかという、サービス選択に関係する違いが表れています。
では、こう書いたらどうでしょうか。
まだ、安さだけでホームページを選んでいるんですか?
同じ方針のつもりでも、別の理由で人が離れる可能性があります。
更新の相談をしたかった人まで、「以前の自分の選択を馬鹿にされた」と感じるかもしれません。価格重視の人だけが離れたとは言えなくなります。
前の表現でも必ず売れるわけではありませんし、後の表現がどんな場面でも失敗するとも限りません。ただ、試したあとに原因を考えやすいのは、方針と挑発を分けておいた場合です。サービスの違いが伝わらなかったのか、違いは伝わったけれど態度が嫌われたのか。次に変える箇所を絞れます。
「全員に好かれなくていい」と、「必要としている人まで遠ざけていい」は違います。
話題になれば、売れることもある。ただし条件がある
否定的な反応が商売に役立つ場合も、研究では報告されています。
マーケティング研究者のジョナ・バーガー(Jonah Berger)らの2010年の研究では、否定的な書評が、有名な著者の本の売上を下げる一方、もともと認知度の低い本では売上を増やすケースが示されました。知られる機会が増えることや、書評に触れてから購入までの時間が、結果に関わっています。
しかし、これは「知られていない会社は炎上すればよい」という結論ではありません。本の書評と、取引先として信用できるかという判断は同じではないからです。「好みではないけれど気になる」と、「約束を守らなそうだから頼まない」を一緒に扱うことはできません。
SuicaのB案である紫色のうさぎについても、呼び名が生まれ、会話の材料になっていることは確認できますが、それだけで投票結果や長期的な愛着までは分かりません。まして、キャラクターの投票を、広告からの成約と同じものとして扱うことはできません。
ここから自社に持ち帰れるのは、派手さの真似より、受け手の言葉を観察することだと思います。こちらは「手厚い支援」と伝えたつもりでも、「高そうな会社」と言い直されているかもしれない。その言い直しには、説明で抜けていたものを探す手がかりがあります。
「嫌われてもいい」を、結果の言い訳にしない
広告を出して反応が悪かったあとに、「合わない客を選別できた」と言えば、どんな結果でも成功にできます。それでは、反応をもとに売り方を改善するDRMが、反応に説明をつけるだけの活動になってしまいます。
先ほどの制作会社なら、広告を出す前に「問い合わせは減っても、更新支援を必要とする相談が増える」という仮説を置けます。そして、問い合わせ総数だけでなく、その相談が実際に何件あったか、受注や対応負担がどう変わったかを、あらかじめ決めた期間で確認する。
問い合わせが減り、期待した相談も増えず、受注も落ちたのなら、少なくともその期間の結果からは「選別できた」とは評価しにくいでしょう。相談の割合が上がっても、件数が減りすぎて仕事が足りなければ、それも見直す理由になります。
小さな会社では件数が少なく、数字だけで判断しきれないこともあります。その場合は、商談で「広告から、どんな会社だと思いましたか」と聞いてみる。好感度を採点してもらうより、相手が何を期待して来たのかを知るほうが、次のコピーにつながります。ただし、来てくれた人の声だけでは、離れた人の理由までは分からないことも残しておきます。
コピーを丸くする前に、「6つの質問」
強いコピーを出すか迷ったら、「攻めるか、無難にするか」を決める前に、次の6つを確認してみると、自社の広告を具体的に見直せます。
誰と誰を分けたいのか
どんな希望や条件を持つ人に、選んでほしいのでしょうか。単に好き嫌いを生むだけでなく、「自分に合いそうだ」と判断する材料が入っているかを確かめます。賛否が分かれる点は、商品選択に関係するか
価格、品質、仕事の進め方など、契約後にも意味のある違いでしょうか。先ほどの制作会社なら、公開後の支援を重視する方針には関係がありますが、安さで選ぶ人を批判する必要があるかは別に考えられます。第三者は、どんな言葉で言い直すだろうか
自分の広告を誰かに一言で紹介するとしたら、何と言われそうでしょうか。「毒Suica」のように、受け手から別の意味が生まれることもあります。その言葉でも、自社の商品や価値に関心が向くのかを考えます。強い主張を支える事実はあるか
「品質が違う」「長く使える」「最後まで支援する」と言うなら、実績、顧客事例、製造工程、具体的な対応範囲などで説明できるでしょうか。疑問を持たれたときに示せるものがあるかを確認します。選んでほしい人まで遠ざけていないか
新規の見込み客だけでなく、既存顧客、取引先、採用候補が読んだらどう受け取るでしょうか。「この会社を選んだ自分まで否定された」と感じさせる表現がないかも見ておきます。広告の外でも、その約束を守れるか
問い合わせへの返答、契約条件、実際の商品やサービスは、コピーと一致しているでしょうか。広告で期待した対応が受けられなければ、選んでくれた人ほど失望するかもしれません。
6つとも、きれいに答えを出す必要はありません。答えに詰まった問いが、公開前に確かめる箇所になります。証拠が足りないなら主張の範囲を見直す。受け取られ方が読めないなら、想定する読者に見せて、自分の言葉で説明してもらう。
誰に選んでほしいのか。その人に何を約束し、どう守るのか。 そこが具体的になると、残すべき強さと、直したほうがよい表現を考えやすくなります。
