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あなたが個展を開くには|写真展「Signs きざし」に探る個展のリアル

note上でひとつの写真展(?)を開きたいと思います。

取り上げるのは、今年の春に福島市内のcafe&gallery @peace(あっとぴーす)にて開催した写真展「Signs きざし」その展示作品16点です。

本記事では、それら一点一点について、

・どのような意図のもと、どういった技法や機材で撮影し、調整を施したか

のみならず、

・個展はどのようにして始まるか
・設営の実際
・タイトルの重要性
・来場くださったお客さまの反応
・作品を販売すること

など、Web上では語られることの少ない個展のリアルを、わたしが特に留意しているポイントを中心に、余さずお伝えするつもりです。

「プリント用紙の選び方」「額装の仕上げ方」のような個別具体的なテクニックを紹介するというより、
「個展ってこういうものだよ」
という実体験ベース・本音ベースのお話をしたいと思っています(何だかんだいって、過去十数回、個展を開催してきましたので)。

わたしの個展開催歴や、どういった作品を制作・発表してきたかは、以下のプロフィールをご覧ください。

手前味噌な言い草ではありますが、今後、個展の開催を検討している写真愛好家の方々にとって、参考になる内容を多々含んだ記事になると自負します。
「写真展に行きたかったけれど、福島は遠くて行けなかった」という方には、液晶スクリーン越しではあるものの、作者のじっくり解説付きで鑑賞できるまたとない機会です。
記事の値段は、写真展への入場料だと受け止めていただければ、たいへんありがたく存じます(1万7千字のうち最初の5千字くらいは無料で読めます)。

それでは早速、スタートしましょう!


1 個展はどのようにして始まるか

(1) 写真展にはさまざまなスタイルがある

たとえば、美術館で開催される著名写真家の回顧展。
あるいは、機材メーカーが所有するギャラリーでの公募展。
アートフェスティバル。
各種コンテンストの受賞作品の展覧会。
写真サークルが定期的に開くグループ展。
個人が商業ギャラリーを借りて開催する個展。
等々。
誰が主催するかや、どのような意図で行われるかによって、参加するための入り口もハードルも大きく異なります(最初に挙げた「美術館で開催される著名写真家の回顧展」のように、そもそも鑑賞者の側に回る以外、選択肢のない写真展もありますね)。

よほど名の通った写真家でない限り、自分の作品をWeb以外で発表しようと思えば、メーカー系ギャラリーやアートフェスの公募に応募するか、何かのコンテストで受賞を狙うか、自分の懐からレンタル料を払って商業ギャラリーで個展を開くかのいずれかになると思います。

この記事では、三つ目の「自費で商業ギャラリーで個展を開く」に焦点を絞って解説します。
公募やコンテストに応募するのも悪くはないですが、それらだけに期待をかけても、選ばれなければいつまで経っても個展を開くことができません。
そして、これまでのわたしの経験上、個展は「どういう形でもよいからまずやってみる」のが何より大事です。

当たり前ですが、一度やってみれば、それが具体的にどういうものなのか、実地の体験として理解できます
もっと言うなら、自分がこの先も写真表現なるものに継続して取り組んでいきたいかどうか、明白な答えが出ます。
一度目の個展で高評価続出、大入満員の大成功などというストーリーは、普通は起こり得ません。
かえって、ここもあそこも不満に感じられ、「一日も早く二度目を開催してリベンジしてやる!」と思えたのなら、あなたのなかに、写真を気慰みの趣味ではなく、表現行為として続けていく強靭な芽が芽生えたとみなせるのではないでしょうか。

話が先走りすぎました。
ただ、間違いなくいえるのは、ここまで「写真展」「個展」という用語を両方用いてきましたが、この二つは基本的にイコールと考えておいたほうがよい、ということです。

写真展を開くとは、個展を開くのと同義です。

少なくともわたしは、そう信じて活動を続けています。
不遜な物言いに聞こえるかもしれません。が、グループ展に参加して「写真展を開いた!」と満足する程度なら、そこから先にあなたの表現が花開く可能性はありません。残念ながら。

個展を開くのは怖いです。恥ずかしいです。
自分の作品やその裏付けとなる世界観を世の中に開示するのは、とても勇気のいる行為です。

手間と時間と費用を投じて個展を開催した挙げ句、「つまらなかった」「何をいい気になってるんだ」と思われたのでは、正直、やっていられない。
いや、そうした感想をもらえるならまだマシで、誰も自分の個展に興味など持ってくれないのではないか……。
そうした不安を抱くのはごく自然です。
それでも、そのハードルをどうにかして乗り越えない限り、次のステージに進むことはできません。
そして、「次のステージ」がいったいどういうものなのかは、個展を実際に開いてみたあなた自身にしか腹落ちできないことなのです。

(2) 個展には伴走者がいる

個展は、「個」展と書きますが、実はあなた一人きりで行うものではありません。必ず伴走者がいます。

伴走者とは、ギャラリーの運営者(ギャラリスト)のことです。

「商業ギャラリーで個展を開催する」とは、当該ギャラリーで自分の作品を販売することでもあります(このことに関しては、あとでまた触れます)。
ギャラリストは、多くの場合、そのギャラリーのオーナーであり、取り扱う作品を販売したり、ギャラリーの使用料を出展作家から受け取ることで、収入を得ています。
大きなギャラリーであれば、従業員の立場のギャラリストもいるでしょう。しかし、これまでわたしが個展を開催した商業ギャラリーは、すべて「経営者=ギャラリスト」の一人親方ギャラリーでした。

ギャラリストは、おカネが絡む仕事として、あなたの作品に向き合います。
たとえあなたが趣味の延長線上で個展を開きたいと考えているとしても、彼ら彼女らは、あくまでビジネスの一環として個展開催をサポートすることになります。
心強い話です。
なぜなら人間は、よほどの事情がない限り、おカネや仕事にまつわる事柄だからこそ、赤の他人とも根気強く付き合ってくれるのですから。
人間性云々は、それを跨いだ向こう岸に待っている話です。

わたしが初めて「個展」と呼べる個展を開催したのは、2010年12月から翌年の始まりにかけて、仙台市にあったカロス・ギャラリーという写真専門のギャラリーが舞台でした。
ギャラリストの佐藤さんとは半年ほど前に知り合ったばかり。そのあいだに、個展の開催をさり気なく、かつ強力に勧められました。
わたしは根が単純で、ちょっとばかりネジの緩んだところのある人間なので、うかうかとその誘いに乗り、「Beyond」というタイトルの初個展を開くに至りました。

よい経験でした。
いまになって振り返れば、麻薬のような、と表現するのが正しいかもしれないですね。
佐藤さんは、出身地の仙台に、普通の人が普通に写真作品を展示発表し、鑑賞し、気に入った写真があれば購入する、そんな文化を根付かせたいとの思いでギャラリーを運営する、志の高い方でした。
過去形なのは、カロス・ギャラリーがもはや存在しないからです。
よいギャラリーでした。忘れられない思い出がたくさんあります。

さて、今回の写真展「Signs きざし」です。
開催のきっかけは、知人の木工作家さんがギャラリーとわたしを橋渡ししてくださったことです。
当時、cafe&gallery @peaceは、オープンしてまだ半年足らず。その木工作家の方は近々個展開催を予定しており、打ち合わせの中でオーナーさんから、
「展示発表してくれる作家さんを探している」
と聞いて、わたしを思い浮かべたそうです。
わたし自身も、2024年秋の「二つの部屋」(福島市写真美術館)以来、作品を発表していなかったため、二つ返事で話に乗らせていただきました。

人との繋がりは大切ですね。
ただ、すべてが人脈で回っているわけではなくて、前述のカロス・ギャラリーに関しては、
「どこか写真を展示発表できる場所はないか?」
とWebで検索して、仙台に写真専門のギャラリーがあることがわかり、思いきってわたしから電話をかけてみたのが始まりでした。
あのときはすごく緊張しました。

繰り返しになりますが、写真展(個展)はアートの話であると同時に、ビジネスの話です。
話が動き出したら(その気配を感じたなら)、できる限り素早く動くことが肝要です。
紹介いただいてすぐ、わたしはcafe&gallery @peaceのオーナーさんにアポを取って、お店で打ち合わせをすることにしました。
その席でわたしは、オーナーさんに次のようにお伝えしました。

「こちらのギャラリーで個展を開催させていただくとして、わたしからは次の三つのプランを提案できます。
①これまで展示したことのある作品を再構成して展示する。
②SNS等で発表済の写真から会場の規模に合った点数を見繕って展示する。
③完全な新作を展示する。

三つのうちどれでもOKです」

③の新作については、持参したA4版のテストプリントをその場でお見せして、相手方の反応を窺いました。

いくつかやり取りを交わしたあとで、オーナーさんから返ってきた返事は、

「4月中旬からの開催を想定しているので、春から初夏にかけての明るい季節に似つかわしい写真展にしてもらいたい」

というものでした。

こうした場面では、
「作家さんに任せるので、自由にやってください」
と言われることがあります。よくあります。作家側が場所代を支払って開催する以上、それが当然だと考える向きもあるかもしれません。

ですが、わたしは常々、ギャラリーはギャラリーの立場から、展示の内容やコンセプトについて、きちんと意見を表明して欲しいと思っています。
そのうえで着地点を探せばよいのです。着地点が見いだせなければ、無理に個展を開く必要はありません。

個展は作家性の最高の発露の場であるべきです。
ギャラリーは単なる場所貸し業ではありません。

立場の違う者同士がひとつのプロジェクトの成功を目指して力を合わせる。違いは違いとして認め合い、すり合わせながら。それがわたしの理想です。

打ち合わせの結果、今回の写真展は、上記②をベースに、適宜新作を加えて実施することに決まりました。

2 展示作品解題|前編

ここからはいよいよ、展示作品の紹介に移ります。

その前にひとつだけ。
オーナーさんからのオーダーである

春から初夏にかけての明るい季節に似つかわしい写真

を、文字どおり「春や初夏の景色を写した写真」と受け取ってしまったのでは、作家としての存在意義が危うくなります。
自分に与えられたオーダー(ミッション)の真意をどのように解釈し、どう表現して見せるか。クリエイターの腕の見せどころです。

よって、セレクトする写真は、カフェ併設のギャラリーであることや、お店の新しく明るい雰囲気を踏まえたうえで、オーナーさんからのオーダーを念頭に置きつつ進めることとしました。

「空のSign」
カメラ:LUMIX S5II
レンズ:LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6(60mm)
F10 1/400sec ISO100

今回の写真展のメインイメージとして、DMにも用いた一枚。

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