4コマ短編小説『じゃらじゃらする皮の実』
朝の草はまだ少し冷たい。
いつものように鼻をひくひくさせながら歩いていたら、へんなものを見つけた。

茶色い。
丸っこい。
石でもないし、木の実でもない。
それに、人間のにおいがする。
ぼくは立ち止まって、耳をぴんと立てた。
こういうのは、すぐに鼻を近づけすぎないほうがいい。
前に、つついたら急にひらひら飛んでいく袋みたいなものがあって、ちょっとびっくりしたことがある。
だからまず、右の前足で、ちょん。
……なんだ。
逃げない。
もう一回、ちょん。
そのときだ。
じゃらっ。

ぼくは飛びのいた。
草がばさっと鳴って、しっぽが地面を打った。
いまの音はなんだ。
この茶色いのの中に、なにかいるのか?
しばらくにらんでいたけれど、向こうは動かない。
風のにおい。土のにおい。遠くで仲間が草を食べる音。
でも、こいつだけは、じっとしているくせに、さっきたしかに腹の中で音を鳴らした。
ぼくはそろそろ近づいた。
鼻を寄せる。
革みたいな、乾いたにおい。
草でもない。花でもない。食べ物の気配も、あまりない。
ちょん。
じゃら。
……やっぱり鳴る。
おもしろい。
今度は少し強く押してみる。
ころん、と転がった。
じゃらじゃらっ。
おお。
ぼくは思わず追いかけて、また前足でつついた。
ころん。じゃら。
ころん。じゃらじゃら。
なんだこれは。
鳴る石か?
皮に包まれた虫の巣か?
それとも人間のへんな卵か?
もう夢中だった。
つついて、転がして、追いかける。
たまに音が大きくなると、少しだけ胸がどきっとする。
でも逃げないし、噛みつかない。
ただ、転がって、鳴る。
これはいい。
なかなかいい。
ぼくが少し勢いをつけて叩いたときだった。
ぱかっ。

茶色いのの口が開いて、中から丸くて光るものがいくつも飛び出した。
草の上に散って、朝の光をはね返した。
ぼくは固まった。
……増えた。
いや、ちがう。
中に隠れていたのか。
ひとつが、斜面をくるくる転がっていく。
ぼくは反射的にぴょんと追いかけて、鼻先で止めた。
小さい。
冷たい。
つるつるしている。
においは、ほとんどしない。
つついてみる。
ちりっ、と鳴って少し動く。
でも、さっきの茶色いのほどおもしろくない。
軽くて、すぐ止まる。
噛んでも草の味はしないだろう。
虫みたいに脚もない。
石にしては、へんにぺらぺらしている。
もうひとつも見た。
それも同じだった。
光るだけ。
冷たいだけ。
ころころするけど、なんだか物足りない。
ぼくは顔を上げて、口の開いた茶色いのを見た。
あっちはもう、じゃらじゃら言わない。
腹の中身をこぼしてしまって、ただのしぼんだ皮みたいになっていた。

さっきまで、あんなにおもしろかったのに。
ぼくは少し考えてから、しぼんだ茶色いのを鼻で押した。
ぺたっ、と動いただけだった。
……つまらない。
草の向こうで、仲間のひとりがこちらを見ている。
「何をしているんだ」という顔だ。
ぼくはしっぽをひと振りして、その場を離れた。
背中に朝日があたたかい。
草はいつもの味がする。
風はいつもの風だ。
数歩進んでから、ちらりと振り返る。
光る丸いものが、草のあいだでまだ少しだけ光っていた。
茶色いのは口を開けたまま、地面にへたりこんでいる。
へんなやつだったな、と思う。
食べられない。
仲間でもない。
敵でもない。
でも、腹の中でじゃらじゃら鳴っていたあいだだけは、
たしかにちょっと、特別だった。
明日また通ったら、まだあるだろうか。
もしまだ腹の中で音がするなら、
もう一回くらい、つついてやってもいい。
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