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掌編小説 土の器

石を焼くのは、タカの仕事だった。
朝、川原で拾った丸い石を火のそばに並べる。十分に熱くなったところで、二本の枝で挟み、水を張った獣皮の窪みに落とす。

ジュッ、と短い音がして白い湯気が上がる。
獣皮の窪みの底で、木の実が揺れる。
冷めた石を取り出し、次の石を入れる。それを何度も繰り返す。
時々、石が割れることもある。その欠片を拾い出すのも、タカの仕事だ。

やがて石が水に飛び込むときのジュッ、という音は小さくなってゆき、水面から立つ湯気が増えていく。

「これで最後だ」

いちばん大きな石を落とすと、水面が大きなあぶくを立て、激しく揺れる。

先に取り出した、まだ熱の残る石を取り上げて、タカは言った。

「これが、そのまま器だったらな」

石そのものが窪んでいて、そこへ水を入れて火の中に置けたら、毎日こんなことをしなくて済む。

タカは毎日石を集めたが、そんな石はなかった。


サキは子供の頃、土を焼くのが好きだった。
雨のあと、粘る土を見つけた。それを丸めて人の顔を作って遊んだ。
土が乾いても、形が残った。

あるとき思い立って、食事を作ったあとの残り火に、乾いた土の顔を一つ放り込んでみた。

火が消えたあとに取り出してみると、石のように硬くなっていた。水をかけても、泥に戻らなかった。

サキは、粘る土を平たくしたり、穴を開けたりして、毎日のように火の中にそれを入れた。壊れるものもあった。黒くなるものもあった。

やがて、形を作ってから日が経って乾いたもののほうが、壊れにくいことを知った。

サキのその姿を見て母は、
「そのために枝を燃やしてはいけないよ」
と言った。
だから、サキは自分の遊びのために火を焚くことはしなかった。
残り火が弱ければ、その日は諦めた。

そうしているうちに、土にも違いがあることを覚えた。
川べりの黄色い土は粘り気が弱い。
林の赤い土は割れやすい。
沢が曲がるところの、灰色の土がいちばん良い。

サキは成長するにつれ、その遊びをしなくなった。


ある日、サキはタカが木の実を煮るのを見ていた。
焼けた石を入れる。
湯気が立つ。
冷めた石を出す。
また別の石を入れる。
途中で、石が一つ割れた。
タカは欠片を拾いながら、言った。
「石が器だったらいいのに」

サキはタカに聞いた。
「どんな?」
「こういうの」
タカは両手を丸くして言った。
「こういう形で、中に水を入れて、そのまま火に置ける、そういう石」
「石じゃないとだめ?」
「木や皮の器は火に置いたら燃えるだろ」
「土は?」
タカは笑った。
「土なんか、水を入れたらドロドロになるだろ」
「焼いたら、泥に戻らないんだよ」

次の日、サキは昔作った土の塊をタカに見せた。
水たまりの中に放り込んで、しばらく置いた。
サキはそれを取り上げると、タカに渡した。
タカは濡れた表面を何度も指でこすった。
崩れなかった。

「サキ、これ、こんなふうにできるか」
タカはまた手を丸くして、器の形を作った。
「わからない」
「やってみよう」
「でもそんな大きいのは、残り火じゃ焼けないと思う」

タカが石を焼く火のそばには、まだ乾いた枝がいくらか残っていた。
「あれを使えばできる」
サキは黙った。

向こうで話を聞いていたアサが言った。アサは火を燃やすための枝を、よく拾いに行っていた。
「あれを使ったら、明日拾う分が増える」
タカは振り返った。
「拾えばいい」
「誰が拾うの」
「俺も拾う」
「お前が枝を拾ったら、誰が石を焼くのさ」
タカは少し黙った。
「両方やる、それならいいだろ」


サキが初めて作った土の器は、焼いているうちに割れた。
二つめも、割れた。
三つめは、それまでの二つよりよく乾かした。
焼いたあとも、形は崩れずに残った。
器に水を入れる。表面は溶けない。
「できた」と二人は手を取り合って喜んだ。
だが、水を入れて火にかけると、しばらくして割れてしまった。

ある日、二人が器を焼いていると、アサから話を聞いた何人かが集まってきた。
「これは何をやっているのか」
年長の男が聞くと、タカが答えた。
「そのまま火にかけられる、石の器を作ろうとしている」
「そんなもの、できるのか」
「まだわからない」
「なぜ、火がいるんだ」
「土を焼くと、硬くなるんだ。水にも溶けない」
タカは、割れた器の欠片を拾って差し出した。
年長の男はそれを手に取って、まじまじと見た。
「これは石でなく、土なのか。だが、割れているじゃないか」
そのとき、うつむいていたサキが言った。
「タカ、もうやめよう。タカも枝を拾って、石も焼いて、大変でしょう」
「サキ……でも、ここまできてるんだぞ……」

そのとき、アサが言った。
「誰かもう一人一緒に、ここで使う枝を拾いに行けないか。三人で、いつもよりたくさん拾うんだ」
アサの言葉に、他の男が口を挟んだ。
「誰かが行けば、その分魚を捕れなくなる」
しばらく、みんな黙った。

サキは、割れた器の欠片を見ていた。
子供の頃の遊びで焼いた土の塊なら、割れてもよかった。
今は、器が割れればみんなの仕事が無駄になる。
「やっぱり、やめよう」
サキが言った。
「だめだ」
アサは首を横に振り、続けた。
「いっぺんに三つの器が焼けるぐらいの大きな火を起こすんだ。そしたら、一つぐらい良いのができそうだろ?だから、いつもよりたくさん枝を拾いたいんだ」
「でも、三つともダメかもしれない」
サキのその言葉に、タカが返した。
「そのときは、しばらくやめよう」
「しばらく?」
「ずっとやめるかどうかは、そのとき考える」
みんなそれを聞いて、笑った。


サキは自分の勘で選びぬいた土で器を三つ作り、しばらく乾かした。
器を乾かしている間に、アサとタカ、もう一人の男の三人で、枝を集めた。

そして、みんなが見守る中、三つの器を焼いた。
火が消えると、一つは割れていたが、二つは残った。
二つとも水は漏れなかった。
サキはその一つを火のそばへ置いた。
しばらく何も起きなかった。
タカは、火に枝を足した。
水面が揺れた。
やがて底の方から、小さな泡が一つ二つ、上がった。

タカは手を打った。
「やった!」
しかし、サキはタカを遮った。
「いや、まだ、食べ物を入れて煮ても大丈夫か、試さないと。煮ているときに器が割れたら、食べ物まで無駄になってしまう」

木の実を少しだけ入れた。
木の実は煮えた。器は割れなかった。
みんなで一口ずつ食べた。
タカは翌日、食事のために焼く石の数を、いつもの半分にした。


器は、すぐには増えなかった。
作るのに時間がかかる。
乾かしている途中で割れる。
焼いている途中でも割れる。
うまくできても、落としたら割れる。

「これなら、やっぱり焼き石の方が良くないか」という者もいた。

それでも少しずつ、器は増えた。
サキとタカより上手に器を作る者が出てきた。
土を細長く延ばして積み上げ、大きな器を作る者。
土に砂を混ぜると割れにくくなることを見つける者。
焼く前の乾かし方を工夫する者。
焼くときの火の当て方を変えた者。

東の山向こうの人々は、器の噂を聞き、作り方を聞いて帰った。
やがて、少し違う形の器を作るようになった。

西の山向こうから来た人々は、話を聞いても「器が重すぎる」と言って作ろうとしなかった。季節ごとに住む場所を移る人々だった。

海辺の人々は、作ろうとしたが作れなかった。近くに良い土がなかった。
やがて、魚と器を交換するようになった。


何十年か経って、寒い年が続いた。
木の実が少なかった。獣の数も減った。
器を持つ人々の中には、それまで食べなかった草や根を煮て食べ、飢えをしのぐ者もいた。
器を持たない人々の多くは、食べ物を求めて遠くへ移っていった。

サキが年老いた頃の子供たちにとって、土の器は珍しいものではなくなっていた。

ある日、サキの孫が聞いた。
「昔は、これがなかったって、ほんと?」
「ああ、そうだよ」
「誰が作ったの?」
「さあ、誰だろうね」
「知らないの?」
「知ってるよ」
「じゃあ、誰?」
「作った人は、たくさんいたんだよ」
サキは、揺れる火と土の器、そこから立ち上る湯気を眺めた。
器の中では、魚と草がゆっくりと、煮えていた。

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