父、ちょっと太る説(番外編研究ノート)
〇月×日
夏。
風呂から出た。
タンクトップを探すため、
上半身裸のまま
リビングへ向かった。
すると、
妻や娘たちが言った。
「パパ、
ちょっとお腹ポチャッとしてきてるよ」
痛いところを突かれた。
いや、
正確には、
薄々、気づいていた。
でも、
自分で気づいているのと、
人から言われるのとでは、
現実感がまるで違う。
「あれ?」
ではなく、
「……そうですか」
となる。
そして、
思い当たる節は、
たくさんある。
まず、大学院生になった。
以前より、
明らかに動かなくなった。
仕事をして、
帰ってきて、
授業を受ける。
パソコンを見る。
論文を読む。
またパソコンを見る。
気づけば、
一日の大半を
座って過ごしている。
さらに、
生活リズムも崩れた。
夜に課題をやる。
夜に論文を読む。
夜に研究のことを考える。
そして、
小腹が減る。
ここで問題が発生する。
ちょっとだけ、
お菓子を食べる。
チョコを一つ。
クッキーを一枚。
飴を一個。
……のつもりが、
もう一個。
もう一個。
もう一個。
「ちょっとだけ」の
積み重ねは、
決して
ちょっとではないらしい。
そして、
もう一つ。
年齢である。
30代も、
後半に差しかかっている。
若い頃の自分は、
どちらかというと
痩せ型だった。
太らないタイプ。
というより
太れないタイプに
近かったかもしれない。
筋肉も、
なかなかつかなかった。
昔はそれを、
「体質だから」
くらいに思っていた。
でも、
どうやら、
体質にも
賞味期限があるらしい。
……知らなかった。
現実を見ろ。
自分。
お腹を見ろ。
自分。
これはもう、
「昔は痩せていた」
では済まされない。
とはいえ、
運動しなきゃな〜
とは思う。
思うのである。
ちゃんと思っている。
ただ、
「そんな時間、
あまりないよな」
という言い訳も
すぐに頭に浮かぶ。
仕事がある。
大学院がある。
家族との時間もある。
研究もある。
だから、
なかなか運動する時間がない。
……と、
もっともらしい理由を
並べてみる。
でも、
たぶん。
こういうのは、
時間があるかどうかではなく、
やるか、
やらないか、
なのだろう。
わかっている。
わかっているのだが、
今日はもう遅い。
ということで、
まずは、
小さなことから
始めることにした。
姿勢を意識する。
背筋を伸ばす。
お腹を少し引っ込める。
どうやら、
正しい姿勢は
お腹にも少し効くらしい。
なるほど。
これはいい。
座っていてもできる。
大学院でもできる。
論文を読みながらでもできる。
なんなら、
今この瞬間にもできる。
素晴らしい。
さっそく、
姿勢を正してみる。
背筋を伸ばす。
お腹を少し引く。
よし。
これで少しは
変わるかもしれない。
そして、
姿勢を正したまま、
お菓子を食べる。
……。
どうやら効果には
あまり期待できないらしい。
たぶん。
それでも、
少しずつ
何かを変えていこうと思う。
せっかくなら、
少しでも長く、
妻や娘たちから
嬉しそうに
「パパ」
と呼ばれたい。
できれば、
「ちょっと太ったね」
ではなく、
「パパ、ちょっと若返った?」
と言われたい。
……まあ、
そこまで贅沢は言わない。
とりあえず、
次に風呂から出たとき、
リビングに行く前に、
お腹を少しだけ
引っ込めておこう。
家族に愛されるための
第一歩である。
ただし、
その直後に
お菓子を食べる可能性は高い。
今後の研究課題である。
以上、研究ノートより。
