小説設定小話#2|『哀れな子ども』と呼んだ男。|『暗転も好転も、それは君と僕の心次第。』
読了時間2分
新連載です。
二矢翔馬、マドス・ユ・ウェイルを
主軸で展開するファンタジー小説。
本編へ入る前に、
マドス・ユ・ウェイル側の、
この世界にある場所や人物、少し不思議な出来事を、
短い物語として置いていきます。
小説設定小話|『哀れな子ども』と呼んだ男。
僕らは、あなたの目になろう。顔と名前を盗られたあなたのために。
また、もう一度立ち上がるあなたのために。
あなたが不自由になったのなら、任せてください。
心を痛めないで欲しいのです。
大きいのです。
あなたが思っているよりも、ずっと。
手を差し出してくれたことで、僕らは、
今、ここで生きている。
ふるえるように、崩れ落ちる。意気揚々と商談に臨んだ。
これは、必ず金になる。
名を広めたいに違いない。
民衆に崇められるために。
どんな貴族でも。
たとえ、相手が子どもでも。
「おい、そこの女!」
部屋の隅に控える平民の女。
商談にこぎつけた男は、平民の女に事実を問う。
「ここは、『マドス・ユ・ウェイルの耳。』の屋敷か?」
女は、答えた。
「わたくしは、お答えできません」
「主人を呼べ」
男は言った。
「私は商談に来ている。小一時間も広間で待たせておいて、返事もないとはどういうことだ」
女は、問うた。
「わたくしは、『マドス・ユ・ウェイルの耳。』と呼ばれるお方の本名を知りません」
「よろしければ、本名をお教えくださいますか、……今ここで」
名前。
本名だと。
心臓が、大きな鼓動と警鐘を鳴らした。
男の両膝が、大きく音を立てる。
「商談で、相手の本名も書けないのに、契約書が作れるはずもないわ。」
平民の女に、正面から切り落とされた。――プライド。
そのプライドに薬草を塗り込まれていく。
じっくりと。染み込む。
「待つあなたが、小声で呟いた
……『哀れな子ども』とでも、書かれてはいかがでしょう?」
太陽が、真上から斜めに傾く。
青い空は、色をゆるやかに赤く変え、
時間を、
ゆっくりと動かす。
「お疲れ様。
すまないね、僕ら男では、彼らは隙を見せないから」
瑞々しいリクリスクの果実が二切れ、彼女に差し出された。
「良いのです、兄様。誰が悪いわけでもないわ」
果実の粒が、プチと弾ける。
酸味に、少しの甘み。
それが、心地よかった。
「ただ、独り歩きしている噂が
事実を、捻じ曲げてしまうだけ」
彼女が顔を少し下げると、頬を涙が伝う。
「……嫌でした。はち切れそうでした。叫びたかった。
『哀れな子ども』と聞こえたときに」
「兄様。わたしは、マドス様をお守りします。
ついてきてくれますか、メディオ兄様?」
メディオは歩み寄り、妹の涙をやさしく指で拭った。
「……君が、自分の感情と意思を示してくれる」
「ひとつだけ言わせて、シユア。君が先に走ると、僕の従う人が二人になってしまう」
「頼むから、隣を歩くぐらいでおさめておいて?」
シユアは、微笑む。
「今日を生きるので精一杯です。手をつないでくださいますか?」
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