小さな手【シロクマ文芸部】
小さな手が伸びてきた。「さぁつかまって」と優しい声がする。闇のなか目を凝らすと白い小さな手が見える。
昨夜のことだ。ベッドで寝ていると突然「地震です!ギュンギュン!」とスマホの声。飛び起きてテーブルの下に入ると強烈な揺れに襲われた。ドン!という音で壁が崩れ俺はテーブルと椅子の間に挟まれ閉じ込められてしまった・・・
そして今はたった一人。小さな手が見えて助かった!と思ったがこんな小さな手では70キロの俺をひっぱりあげることはとても無理だ。それにぼんやりと浮かび上がった手にはなんと目がある。やっぱりこれは幻だ。酸素が少なくなって意識が朦朧としてきたせいだろう。小さな手の本数が増え、次から次へ差し出される。ものが二重にも三重にも見えてきたせいか・・・その沢山の手が俺の体を支えて・・・
気が付くと俺はベッドの上に寝ている。助けられたのか・・・看護師が医師を呼ぶ声・・・瓦礫の中に閉じ込められた俺は、最新式の生体感知器で発見され助け出されたのだそうだ。それに感知されると、埋もれた人の姿がまるで見ているように画面に映し出される。
「じゃぁ俺を救い出した手はその機械から伸びたもの?」
「まさか、手まではついていませんよ。作業員が救い出したんですよ」駆けつけた医師は笑った。
一週間後退院し俺は用意された仮住まいのアパートに入居した。住んでいた家に行ってみると段ボールをグイと潰したように壁はひしゃげ屋根がペタンと地面に乗っかっている。古い家だったし、じいちゃんが亡くなってからずっと一人暮らしだったから、もう引っ越すしかないだろう・・・そう思いつつふと見ると散らばった瓦のなかから、じいちゃんが大事にしていた仏像が顔を出している。拾い上げるとそれは千手観音で、その沢山の小さな手のひらにははっきりと目が刻まれていた。
おわり
小牧さんの企画に参加させてください。
小牧さんお手間をおかけしますがよろしくお願いいたします。
千手観音(せんじゅかんのん)とは、「千の手」と「千の目」で人びとを救う観音さま。 1000本の腕をもち、それぞれの手のひらには目がついています … 大勢の人を助けてくださいますように!

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