[お昼のおやつ]現代詩: 詩を書く猿1.0 暑いですなあ。。。
詩を書く猿
猿は
腹が減ったので
バナナを食べた。
雨が降ったので
木の下に入った。
夜になったので
そこで眠った。
それでよかった。
ある日、
猿は
夕焼けを見た。
食べられない。
持って帰れない。
敵でもない。
役に立たない。
だから
帰ればよかった。
ところが猿は
立っていた。
赤いな、
と思った。
寂しいな、
と思った。
猿は
胸の毛を一本抜いた。
夕焼けの中で
赤く光った。
それを
木の根元に置いた。
誰かが
ここにいたしるしのように。
次の日、
月を見て
あれは
ひとりぼっちだ、
と言った。
猿は
隣の地面を叩いた。
ここへ来い、
とでもいうように。
月は動かなかった。
雨が降ると
落ちてくる水を
両手で受けた。
空が泣いている、
と言った。
風が吹くと
振り返った。
誰もいない。
それでも
木々のあいだへ
耳を澄ました。
誰かが
呼んでいる、
と言った。
誰も呼んでいない。
猿はとうとう
見えないものを
見える場所へ
運び始めた。
夕焼けから
赤をひとつ。
月から
白をひとつ。
雨から
冷たさをひとつ。
枯れた葉の上に並べた。
赤い毛。
白い石。
濡れた葉。
赤い毛を
月のそばへ。
白い石を
雨の跡へ。
濡れた葉を
夕焼けの方へ。
ばらばらだったものが
少しだけ近くなった。
猿は
その並びを直した。
夜が深くなっても
帰らなかった。
やがて猿は
地面に
一本の線を引いた。
赤い毛から
白い石まで。
もう一本。
白い石から
濡れた葉まで。
線は
どこへも行かなかった。
猿は線のそばに
小さな丸を描いた。
その中へ
赤い毛。
白い石。
濡れた葉。
入るはずのないものが
カチリと入った。
猿は
その丸を両手で掬った。
誰にも
踏まれないように。
朝になっても
猿はそこにいた。
バナナは
木の上で熟れすぎていた。
猿は
見なかった。
やがて猿は
地面の丸を
枝の先でなぞった。
消えた。
猿は
声を上げた。
もう一度、
線を引いた。
今度は
石で地面を削った。
赤い毛。
白い石。
濡れた葉。
猿は
それぞれを見ながら
短い声を出した。
声をつないだ。
つながらない声を
何度も並べた。
やがて猿は
木の皮を一枚はがし、
裏側に
爪で線を刻んだ。
夕焼けが消えても、
月が沈んでも、
雨が乾いても、
線だけが残った。
それから
何万年もたった。
いまでも
一匹の猿が
机の前に座っている。
腹は減っていない。
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