ノウゼンカズラの心|しがみついていなくてもいいのかもしれない
朝、カーテンを開けると、容赦のない真夏の強い光が部屋に差し込んでくる。
今日もまた、忙しい一日が始まる。
目の前にある仕事の目標や、周囲からの期待。
そうした壁を見つけるたびに、ぴったりと心を寄り添わせ、一歩一歩よじ登っていくことが自分の生き方だった。
高く登るほど周りは喜び、自分も自分の存在を確かめることができる。
そのために今日も精一杯、ちゃんと成果を出して期待に応えなくてはと、自分を鼓舞している。
けれど最近、ふとした瞬間に、胸の奥が少しだけ窮屈になることがある。
あなたなら大丈夫、いつもタフだね。
その言葉に応えようとすればするほど、息を止めるようにして、さらに上へと背伸びをしてしまう。
少しでも力を抜けば、この壁から剥がれ落ちてしまうような気がして、力を緩めることがどこか怖い。
そんな日の通勤途中、あるお屋敷の塀から溢れるように咲く、オレンジ色の花が目に留まる。
ノウゼンカズラの花。
夜の間に落ちたのだろうか、アスファルトの上に、その花がひとつ、ぽつりと静かに落ちている。
それは、花びらが一枚ずつはがれて衰えていくのではない。
まだ鮮やかな色を残した綺麗な姿のまま、地面に落ちている。
信号を待ちながら、その様子をじっと見つめているうちに、ざわざわとしていた胸のなかに、小さく静かな空白が生まれる。
そして、ふと思う。
一度、肩の荷を下ろすということは、決してすべてを諦めることでも、終わりでもないのだと。
あんなに高く登って咲いていた花が、こうしてアスファルトの上で、ただ、きれいな色のまま、ぽつりとそこにある。
その姿の、あまりの飾りのなさに、目を奪われる。
いつももっと、もっとと背伸びをして、しがみついていなくてもいいのかもしれない。
胸の奥の緊張が消えたわけではない。
けれど、その姿を見ていると、自分がどれだけ息を詰めて歩いていたかに、いま、気づかされる。
今日もこれから、私はあのオフィスへ行き、自分の役割を果たす。
けれど、もう必要以上に、他人の壁に張り付いて無理をする必要はないのだと思える。
これからは、一生懸命に上を目指して走る時間と同じくらい、自分の足が立つ場所で、じっくりと息を整える時間も大切にしよう。
誰の目も気にせず、ただ自分が心地よくあるための瞬間を、一日のなかにほんの少しだけ作ってあげる。
それが、自分をちゃんと守るということ。
青に変わった信号を渡る。
劇的に心が軽くなったわけでも、悩みが消えたわけでもない。
けれど、深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
いつもよりほんの少しだけ、胸の隙間を広げたまま、私はいつもの日常へと歩き出していく。

今日も、よく頑張った。
明日もまた、私は私のままで。
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