【SIDE: 楽奈0.5】rev
「・・・じゃあ、これでHRを終わります。日直さん、帰りの挨拶お願いね」
「きりーつ!礼!」
「「「さよーならー」」」
お決まりのあいさつで学校が終わった。さて、今日はSPACEのライブはないから、おばあちゃん家に行ってギター弾こ。
「要さん!」
教室を出ようとしたとこで、先生に呼び止められた。なに?
「今日これから、要さんのお母様が来るって前に言ったよね。三者面談するから残ってて」
・・・そんなことあったっけ。聞いたような気もするけど、わかんない。よく覚えてない。何回めかもわかんない。
「・・・ん」
とりあえず返事する。
「じゃ、お母様4時には着くって仰ってたから、それまでここで待ってて、一緒に職員室まで来てね」
「ん」
先生は教室を出て行った。でもこれ、きっとまた前とおんなじ。いてもいなくても関係ない。と思う。先生が言ってること、かけらもわかんないし。いた方がいい?いなくてもいい?先生の足音が遠ざかる中、ちょっとだけ考える。
・・・うん、おばあちゃん家行こ。早くギター弾きたい。面談はおかあさんがなんとかしてくれる。
薄っぺらいカバンを肩にかけて、おばあちゃん家に向かった。
…
「・・・楽奈。・・・楽奈!」
・・・ん?あれ、おばあちゃん。どしたの?・・・ここどこ?ん、ギター持ってる?あ、そうか、おばあちゃん家か。いつの間にか寝てたんだ。
「まったく・・・またギター弾きながら寝てたのかい。器用だねえ」
「・・・ふあ。おはよ、おばあちゃん」
「もう夜の9時だよ。帰ってきたら、靴があるのに家は真っ暗だし、やっぱり寝てたんだね。さっき唄に電話したら、迎えに来るってさ。もうすぐ着くよ」
「・・・んー」
ねむい。おばあちゃんに教えてもらったミラスカのバラードの練習してたら、だんだん気持ちよくなって・・・ギター抱えたままで寝ちゃったみたい。よくある。ケータリングの残りの抹茶クッキーもいっぱい食べたし、楽しかった。
「今日はセミアコかい。そいつもいいギターだろ?」
「うん。すごくいい」
「そいつは1966年製のES-335ってギターでね。アメリカのギブソンってメーカーのもんだ。この時代はネックが薄くてすごく握りやすくてね、女の私の手でもしっくり馴染むんだよ」
おばあちゃんは、ギターの話になるととても楽しそう。嬉しそう。よくわかんないけど、おばあちゃんがどれだけギターが好きなのかはわかる。それを聞くのが楽しい。そういうおばあちゃんを見るのが好き。
「このブランコ・テールピースってのが良くってね、とても空気感のある音が出る。ライブでよく使ったもんさ。こいつじゃないと出ない音ってのがある。ピックアップはいわゆるPAFってやつだが、この時代にはもう特許登録されてたから、実は裏を見ると登録番号が書いてあってね・・・」
ふふん。もっと聞かせて。ずっと聞いていたい。おばあちゃんと、ずっとずっとギター弾いて、ギターの話をしてたい。おばあちゃんだけが気付いてくれた。ギターでなら話せるって。ギターでなら叫べるって。これでいい。これがいい。
ピンポーン。
「・・・おや。唄が着いたようだね。続きはまた今度だね、楽奈」
「・・・ん」
おかあさん来ちゃった。もっとお話聞きたかったのに。
最後に、Emaj9をボロン、と弾き下ろして、ギターをスタンドに掛けた。やっぱいい音。でも、傷だらけの赤いESPが一番好きかな。あいつをアンプでドカーンと鳴らしてみたいな。
…
家に帰って、お風呂に入った。出てきたら、おかあさんが誰かと電話してる。スピーカーにしてるから声が聞こえる。おとうさんかな。いつもはもっと遅い時間か、朝早くに電話してなかったっけ。
「・・・そうなのよ、今日も全然帰ってこないと思ったら、ママのところ行ってて・・・いつもみたいにギター抱えて寝ちゃってたみたい。さっき迎えに行って、連れて帰ってきたとこ」
『ははっ、楽奈は本当にギターが好きなんだな』
「もう、笑い事じゃないんだから・・・まあ、ママの家だからって安心感はあるし、ママの様子も見に行けるからいいんだけどね。相変わらず元気そうで安心したよ・・・あ、楽奈、こっちおいで」
おかあさんが手招きする。
「ほら、お父さんと電話する?お父さん今、出張でロサンゼルスにいるんだって。あっちは朝だから、仕事に行く前に電話くれたの」
と、スマホをこっちに向ける。そういえば、おとうさんってどんなんだっけ。ずいぶん会ってないし、よくわかんない。
「・・・ん」
『楽奈〜、元気してたか?』
「ん」
『どうだ、ご飯もちゃんと食べてるか?好き嫌いしてると、強くなれないぞ〜』
「・・・おなかすいてない」
「・・・またケータリング勝手に食べたな?」
おかあさんが言う。おばあちゃん家に置いてあったケータリングの余りだけど。だって、おなか空いてたんだもん。
「抹茶クッキー食べた」
「も〜・・・ママだってわざわざ楽奈が好きなお菓子置いてるんだから〜。晩ごはんも買ってきたのに食べないの〜?」
「いい」
「もう!・・・まあ、私がいつも帰り遅いしね、楽奈だけを責められないけど・・・」
おばあちゃん家とSPACEがあるから大丈夫。食べ物はなんかあるし。ギターがあれば退屈しないし、気にしなくていいのに。
『お義母さんも元気そうでよかった。学校の方はどんな感じ?』
「今日学校に呼ばれて行ったところ」
『お、6年生で初?』
「そう。相変わらず授業中にどっか行ったりしてるみたい。そりゃ担任の先生も困るわよね」
・・・なんで先生が困るんだろ。わかんない。迷惑かけてないのに。
「三者面談って聞いてたのに、学校着いたら楽奈はいないし、先生は残るように言ったって言うし。先生と二人で溜息ついちゃった」
『それで成績だけはいいんだから、不思議な話だよなあ』
「本当よ、宿題は全然やらないのに」
だって、教科書にぜんぶ書いてある。書いてないことはテストに出ない。読んだらわかるでしょ?授業って、書いてあることをわざわざ先生がもう一回説明するだけだし、つまんない。だったら、ねことひなたぼっこしてた方がいい。
『やっぱり来年からこっち来る?楽奈にとって、日本より居心地いいかもだし。唄が好きなデザイナーもいるんだろ?』
「まあ・・・チャンスがあればね」
『・・・あ、もう時間だ。そうだ楽奈、進級のお祝いは何がいい?』
お祝い?そうか、ろくねんせになったからか。もうけっこう経ったけど。ほしいもの・・・ほしいものか。あ、そうだ。
「エフェクター」
一瞬間があって、おとうさんは言った。
『エフェクター?ギターじゃないのか?』
「うん」
だって、ほしいギターはおばあちゃん家にあるもん。あれがいい。もう決めてる。おんなじギターの新品じゃなくて、あれがいい。あれじゃなきゃイヤ。
『わかった。どんなのがいいのか、唄に言っておいて。じゃ、行ってきます』
「ほら、楽奈もいってらっしゃいしな」
「バイバイ」
おかあさんはピッと電話を切った。
「よかったね、楽奈」
「ん。エフェクター、MAD PROFESSORのオーバードライブがいい」
「マッド・・・何?よくわかんないけど、今度詳しく教えて。ネットで買った方が確実かなあ」
「買えるならなんでもいい」
「でもいい?何度も言ってるけど、エレキギターは感電とか危ないんだから」
「・・・」
ちゃんと使えば大丈夫なのに。もう使い方知ってる。SPACEの楽屋でいっぱい教えてもらってる。でもそれは言っちゃダメ。
「アンプに繋いでいいのは、いつになったらだっけ?」
もうできるのに、わかってるのに、って言いたい気持ちをグッと抑える。
「・・・ちゅうがくせ」
