43ページに刻まれたもの
ある日、
駅のホームで電車を待ちがてら
立って本を読んでいたら、
開いた文庫本の左肩の
“43”
という数字の左横に、
どこからか よろよろと飛んできた
蚊が着地した。
おどろいた私は咄嗟に
右手の人差し指と中指の間に挟んでいた
しおり代わりに使っている
未だ訪れたことのない
洋菓子店のショップカードで、
その蚊を軽くはらった、つもりだった。
つもりだった、のだが
思いのほか
はらう勢いが良過ぎたのか、
しっかりとした紙質のせいなのか、
私はそのカードで
あっけなく蚊をやっつけてしまい、
蚊ははらりはらりと
くすんだ色をした地面に落ちて行き、
やがて見えなくなった。
そうして
よろよろしていた蚊の命と引き換えに、
私の本の43ページの左肩に
黒い線が刻まれた。
やわらかい白色の紙に
しるしのように
くっきりと刻まれた黒い線を
じっと眺めていたら、
“あぁ、この本はこれで
私だけのものになったのだ”
という実感が、
なぜかむっくりと湧いてきた。
その日は
なんとなくもう続きを読む気には
なれなかったから、
本をぱたんと閉じて鞄にしまい、
ぼんやりしながら
電車の到着を待った。
【追伸】
蚊、ほんとごめん。
43ページから先も大切に読むし、
本も大切する。
