届かない理想と土曜日のランチ
「60歳になったらリタイアするって前々から決めていたの」
同級生同士で結婚して、専門は違うけれども二人ともお医者さんになって、子供を二人養子に迎えたその後はお子二人とも立派に独立し、エディンバラ郊外にお家を買ったところで満を持してリタイア。そして、孫が生まれて、幸せを満喫している理想的なご夫婦の家で土曜日のランチ。
リタイア後に住むようにとこの家を買った時も、
「あんな家に住みたい」
と小高い丘の上に立つ一軒家を奥様の方が指差した後、いろんなご縁が重なって、その家を手に入れたという、なんていうの、シンデレラサクセスストーリーみたいなお話なのです。





キッチンは広々としていてアイランドがあって、素敵だなあ




ヴィネグレットドレッシングまで完璧だ


我々が最近行ってきたシチリア島について話していたら、この本を勧めてくれた




私はメレンゲそのものに愛着はないのだけれども、ご夫婦の旦那様作のこのメレンゲパイは、外がさくさく、中にはクシュッとした柔らかさが残り、巨大なマカロンのような食感で惚れました。


大きな空を眺めながら、こうやって人と人が会って、とりとめもないことを話せたりシェアできるのって、実は、人が生きていく上で最も大事なことの一つなのではないかとしみじみ思いました。ご夫婦も、リタイア後、映画を見たり、本を読んだり、庭仕事をしたり、と色々忙しくはしているけれども、やはり正気を保つ、社会の一員として生きている、と感じるためにはネット上ではなく、電話でもなく、ちゃんと人と会って話すことが大事だと言っていました。こんな我々でよければ、いつでも喜んで会いにくるからね、うふふ。


好きなものを選んでっていうので、こういう時、真面目に説明を一生懸命読んじゃうよね

非の打ち所がない羨ましい限りの理想のご夫婦のリタイア後生活ですが、お家が、お庭を含めて、お二人には大きすぎることが逆に問題。しかも郊外なので、車がないと生活できない。大雨の日には停電したり舗装がイマイチの生活道路が使えなくなってしまったこともあったと。田舎はネズミも出るんだからね〜と、ひいいい〜 の世界も見えたりする。60代〜70代はいいけれど、その後だんだん老いて行って独り身になってしまう頃には、やっぱりエディンバラの市内に戻って、小さなフラットに戻ることも考えてるなんて、と未来の孤独も垣間見えて、60代を超えても人生の問いは終わらないのだと気付かされます。
ひるがえって自分を見ると、私も自分のリタイア後生活をどうするのか考えることが多くなってきたこの頃。ビシッとお家を決めることもできず、かつて望んだ子どもを育てる未来も実現しなかった。子供を養子に欲しいと思ったことがあったのに、いろんな条件やらに逃げ腰になり、自分たちの自由を優先させた結果実現しなかったし、メレンゲパイひとつ上手に焼けない。大きな差、逃れようのない敗北感のようなものが一瞬胸を掠めて行ったと思ったけれど
ご主人が大きなおしゃれバスケットを抱えてきて

その焦りを打ち消してくれたのは、手渡された巨大なズッキーニ。

わあ〜 なんて新鮮でおいしそうなズッキーニ。一番大きなずっしりとしたズッキーニをもらって、手の中で重みを感じながら、お腹も心も満たされた帰り道。理想の暮らしを追い求めるのもいいけれど、振り回されすぎてもいけないよね。今日のような温かな時間があるだけでいい。私、最近、大きな理想よりも、小さな幸せを大事にできるようになってきています。
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