あなたとわたしの夜に潜む
薄手のガーゼケットを頭からかぶり、小さな懐中電灯の明かりのなかに潜り込む。
部屋のエアコンの低い微振動も、網戸越しに聞こえる遠い虫の音も、すべて布の境界線の外側に追いやって、わたしはようやくその手紙と二人きりになった。
昼間の陽射しのもとで読む手紙は、まだ「世界」に属している。
青空の眩しさや、真夏の熱気が窓から忍び込んで、静けさを奪ってしまう気がするからだ。
けれど、この薄暗くひんやりとしたガーゼの影の中だけは違う。ここにあるのは、指先に伝わる少しざらついた紙の質感と、ささやかな光の中に浮かぶあなたの文字、そしてわたしの息遣いだけだ。
丁寧に折られた紙をひらくと、かすかに夏の夜の風のような、乾いたインクの匂いが漂う。
一文字一文字を目でなぞるたび、夕立のあとの涼やかさのように、時間の隔たりを飛び越えて言葉が体のなかに沁み込んできた。
「お元気ですか」
たったその一行を読むだけで、胸の奥がふっと涼しく、そして熱くなる。この布のなかで、その言葉はただの挨拶ではなく、わたしひとりのためだけに注がれる深い声になる。
手紙と二人きりになるということは、あなたの記憶そのものと重なり合うことだ。熱に浮かされた夜に抱く切なさも、誰にも見せたくない弱さも、この白い紙は黙ってすべてを受け止めてくれている。
指先で、紙の上の「あなた」の筆跡をなぞる。言葉が文字という形をとってそこに留まってくれたおかげで、わたしはいま、季節の流れるスピードからそっと降りることができているのだと思う。
懐中電灯の小さな光の中で、手紙は静かに横たわり、わたしが何度も読み返すのをじっと待っている。
熱帯夜の街がどれほど暑さに蠢いていても、この布のなかだけは永遠に澄んだ夜のままでいい。
わたしはもう一度、最初の文字へと視線を戻した。



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