第55話 品格は、選び方に表れる
品格という言葉には、
少し曖昧なところがある。
育ちが良いことなのか。
高価なものを持っていることなのか。
礼儀正しく、
静かに振る舞うことなのか。
どれも品格の一部ではあると思う。
ただ僕は、品格とは
生まれつき与えられるものではなく、
日々の選択によってつくられるものだと考えている。
何を着るのか。
どう振る舞うのか。
どんな言葉を使うのか。
誰に対しても同じ態度で接することができるのか。
その小さな積み重ねが、
その人の外側へ少しずつ滲み出てくる。
だから品格は、
一日で身につくものではない。
けれど、今日から整え始めることはできる。
僕が思う品格には、
いくつかの要素がある。
まずは、清潔さ。
どれだけ高価な服を着ていても、
生地が疲れていたり、
靴が汚れていたり、
サイズが合っていなければ品格は生まれない。
清潔さとは、
単に汚れていないということではない。
自分自身を整えること。
そして、
一緒にいる相手へ不快感を与えないこと。
相手に対する配慮が、
目に見える形になったものだと思う。
次に、知的であること。
知的に見えるというのは、
難しい言葉を使うことでも、
堅い服を着ることでもない。
何を足し、何を引くかを理解していること。
目立つものを並べるのではなく、
全体のバランスを考えられること。
自分の好みだけでなく、
周囲や状況まで見ることができること。
そうした判断力が、
装いに落ち着きを与える。
品格のある人は、
すべてを説明しようとしない。
ロゴで価値を主張しない。
高価なものを身につけていることを、
必要以上に見せようとしない。
分かる人だけに伝わればいいという、
静かな余裕がある。
そして、場に合わせること。
服は、自分だけのために着るものではない。
仕事。
食事。
式典。
そこには必ず相手がいて、
その場に求められている空気がある。
品格のある人は、
自分らしさを出す前に
その場所が何を求めているのかを考える。
目立つべきなのか。
控えるべきなのか。
信頼感が必要なのか。
華やかさが必要なのか。
その場に馴染みながら、
自分が何を加えられるかまで考える。
場に合わせることは、
周囲と同じになることではない。
その場への敬意を持つことだ。
そして僕が、
品格において特に大切だと思うのが
オリジナリティだ。
清潔で、知的で、
場に合った服装をしていても、
そこにその人らしさがなければ、
ただ正しく整っているだけになる。
もちろん、それでも悪くはない。
ただ、品格のある人には
正しさだけでは説明できない魅力がある。
何か少し違う。
目立ちすぎてはいないのに、
なぜか印象に残る。
色の選び方。
素材の見せ方。
シルエットのバランス。
袖のまくり方や、
靴との合わせ方。
ほんの小さな違いの中に、
その人の価値観が現れる。
オリジナリティとは、
奇抜であることではない。
誰も着ていないものを着ることでもない。
自分の基準で選び、
自分なりに整えられていることだと思う。
流行を理解している。
年齢も分かっている。
その場の空気も読めている。
その上で、
少しだけ自分の感覚を加える。
そのわずかな違いが、
その人の輪郭になる。
品格とは、
目立たないことではない。
品よく目に留まることだ。
主張しすぎず、
それでも埋もれない。
周囲に馴染みながら、
その場の空気を少し良くする。
そこには、
清潔さも知性も配慮も必要になる。
そして最後に、
その人だけの選び方が必要になる。
僕が服をつくるとき、
単に身体を覆うものをつくっているわけではない。
着る人を清潔に見せること。
知的に見せること。
どんな場所にも自然に馴染ませること。
そして、周囲と同じにならず、
その人自身の存在を残すこと。
そのすべてを考えている。
派手な装飾や大きなロゴで
その人を説明するのではない。
素材。
シルエット。
色。
着心地。
細部の選択によって、
着る人の魅力を静かに引き上げる。
服が先に見えるのではなく、
その人自身が良く見える。
それが、僕の考える良い服だ。
品格は、服だけで完成するものではない。
最後には、その人の振る舞いや言葉、
生き方が必要になる。
ただ、服はその入口をつくることができる。
きちんとした服に袖を通すと、
自然と姿勢が変わる。
少し丁寧に話そうと思う。
その場所に相応しく振る舞おうとする。
服によって意識が変わり、
意識によって行動が変わる。
その積み重ねが、
やがてその人の品格になる。
僕の服を着れば、
突然別人になるわけではない。
けれど、自分の中にすでにある
清潔さや知性、配慮、個性を
正しい形で外へ伝えることができる。
そして今まで気づかなかった
自分自身の魅力に出会うことができる。
僕が服を通して渡したいのは、
単なる高級感ではない。
着る人を少し格上げし、
その場に自然に馴染ませ、
それでも埋もれさせないこと。
清潔で、知的で、
その人だけの個性がある。
僕が考える品格とは、
そういう姿だ。
品格は、買うものではない。
自分の中にあるものを、
選び方によって磨いていくものだ。
そして良い服は、
その品格を引き出すための
最も身近なきっかけになる。
