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掌編小説『宇-アメノシタ』 コーヒー1杯の小説シリーズ


からん、ころん。
わたしは揺れる。乾いた音を立てる。

からん、ころん。
からん、ころん、からん。
からん、ころん。
からん、ころん、からん。


眩いネオンサインに埋め尽くされた街から、賑やかな声が聞こえてくる。
人々が手と手を取り合って、和気藹々と過ごしているのが伝わってくる。
誰もが互いを認め合って生きている。
誰もが自分自身を、大切にして生きている。


この場所に日の光が届くことなどない。
地下深くにあり、惑星が与えてくれる温もりを余す事なく享受している国なのだから。
豊富な食べ物と安心で満たされた社会。
誰もが、平等に愛されている楽園。


からん、ころん。
からん、ころん、からん。

私は言うなれば、地上から流れ着いた残り物だ。
貪欲な犬にしゃぶり尽くされ、惨めに排水溝に捨てられた残骸だ。
排水管を真っ逆様に落ちてきた異物。
恒久の平和に辿り着いた、余所者。


旱魃を免れたこの世界では誰もが満ち足りていて、常に愛を振り撒き歩いている。
そこら中、優しく手を差し伸べてくれる人々で溢れている。
そう、虐げられている人など、どこにもいない。


からん、ころん。
からん、ころん、からん。

瑞々しい手のひらが、干からびた私を優しく撫でている。
慈愛に満ちた肌の温もりが、崩れかけの体にじいんと響く。


ああ、私は、ここで幸せになれるに違いない。
何も心配することなく時を過ごしていけるに違いない。
静かに、穏やかに、安らかに、朽ちていけるに違いないのだ。


でも、私はこの世界に馴染むことを拒む。
心地よい暖かさに蕩けることを拒否する。

なぜなら私は知ってしまっているから。

太陽の強烈な熱気を。

絶望的な暑さの中で生を渇望する動物達の姿を。

互いが互いを猛烈に求める世界を。

生きるため、誰かを半狂乱で追い求める人々を。


皆が寝静まる頃、浮かんでくるのはあなたの顔ばかり。
死に対する勝利を噛み締め、貪欲に歪むあなたの笑顔。忘れられない。


最後の食料を食い尽くし、水すら失ってしまった私たち二人。
そんなときあなたは、私が提案するまでもなく粗末な肉に噛み付いてくれた。
腕を、足を、腑を、戸惑うことなく平らげてくれた。


あの時、私ね、痛くて痛くてたまらなかったの。

でもね、同時に、骨の髄まで極上の愛に満たされていたの。


あなたがこの骨だけを残したのは、優しさからだったの?
それとも、途中で飽きてしまったからなの?

白い塊として残された私は、あの愛を失わずに済んだ。
けれどそのせいで、惨めな犬にしゃぶり尽くされた。
そして惨めに捨てられ、こんなところに流れ着いてしまった。


ねえ神様、もしいるのなら私の願いを聞いて。

どうか私の望みを叶えて。

どうか私を、あの荒れ果てた大地に、熱に支配された世界に戻して。


生温い喜びなんていらない。

安らかな余生なんていらない。

ただただ、うだるような暑さの下に晒してほしい。

だって私は光の中で生まれたのだから。

熱気の中で育ち、熱気の中を生き抜いてきたのだから。


灼熱の太陽の下に捨て置いて。

胸一杯の愛を実感することのできる世界に置き去りにして。

日の本に生まれついた私には、あの場所しか、考えられないのだから。





作品の雰囲気にあってないかもしれませんが、とりあえずこの曲をアップしておきます。

およそ二週間に渡って掌編小説を書いてきましたが、この作品をもって一つの区切りとさせて頂きます。

火曜日に、これまでに投稿してきた掌編小説のまとめ的なエッセイを載せる予定です。よろしくお願いします。

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