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なぜエンジニアを増やしても、プロダクトは早くならないのか

本記事は、プロフィットメイカーズの坂口が執筆する「言葉にするCTO思考」シリーズの一編です。
元CTOとしての経験をもとに、プロダクト開発の現場で日々向き合ってきた
“経営と技術のあいだ”にある思考や判断を、言葉にして綴っています。

  • 開発チームがなぜ動かないのか。

  • 何を優先すれば、事業が前に進むのか。

  • CTOがそばにいないとき、どう考えればいいのか。

そんな問いに向き合う、ビジネスサイド出身の経営者の方々や、
日々、開発をリードするCTO・PdMの方にとっての一助となれば幸いです。




「人を増やせば早くなる」は、本当にそうなのか


開発のスピードが思うように上がらないとき、
「エンジニアを増やせば早くなるのでは」と考える方も多いのではないでしょうか。
ただ現場では、その判断がスピードを下げる要因になることも少なくありません。

この現象を説明する代表的な考え方が「人月神話」です。
アメリカのコンピュータ科学者、フレデリック・ブルックスが提唱した「ブルックスの法則」では、
「遅れているプロジェクトに人を追加すると、さらに遅れる」とされています。

少し極端に聞こえるかもしれませんが、実際の開発現場ではよく見られる現象です。
背景にあるのは、チームが大きくなることで情報のやり取りが一気に複雑化するという構造です。
人が増えることで、単純にコミュニケーションコストが跳ね上がるのです。

例えば、3人のチームで3通りだった伝達経路は、6人になると15通りに増えます。
その分、認識合わせや調整の時間が増え、結果として全体の進行が鈍化します。

さらに、新しく加わったメンバーがすぐにフル稼働できるわけではありません。
既存メンバーがサポートに回ることで、一時的に生産性が落ちる。
つまり、「増員したのに進まない」という状況が、一時的には必ず起こるということです。


「人数=生産性」にならない、3つの構造的な理由

開発スピードが落ちる背景には、気合いやコミュニケーションの質などだけでは説明できない仕組み上の要因があります。
もう少し構造的に見てみると、おおよそ3つの傾向に整理できます。

① コミュニケーション経路の増加
人が増えると、単純にやり取りの数が指数的に増えます。
その分、認識合わせや確認に時間がかかり、意思決定が遅くなります。

② 依存関係(クリティカルチェーン)
開発のタスクは、思っている以上にお互いが密接につながっていることがあります。ある作業の確認や合意が済まないと次に進めず、待ちの時間が発生します。

③ 統合作業の増加
最終的に全員の成果物をまとめるとき、変更内容が衝突(いわゆるコンフリクト)し、修正が必要になることもあります。

こうした構造的な要因が重なることで、「1人増える=1人分早くなる」とは限らず、むしろ短期的にはチーム全体のスピードが落ちることもあるのです。


経営として見るべきは、工数ではなく「全体コスト」

では、どうすれば納得感のある増員判断ができるのでしょうか。

大事なのは、「全ての関連コストを見積もりに含める」という発想です。
開発工数だけでなく、管理・レビュー・教育・ルール整備など、
周辺で発生する作業も含めて捉えることが大切です。

自分の経験上、チームが5人を超えるあたりから、
意思決定やレビューのプロセスが少しずつ重くなる感覚があります。
立場や役割が分かれ始め、情報共有や判断の手戻りが起きやすくなってきます。

こうした管理レイヤーのコストを事前に見積もっておくことで、
「短期は確かに遅くなるが、中期的にはチームが安定して速くなる」という構造を
共有しやすくなります。

増員を考えるときは、「人を増やす=即スピードアップ」ではなく、
「短期の谷と中期の山をどう設計するか」という見方を持っておくと、
より現実的な判断ができるはずです。


「増員の谷」を織り込めるかが、マネジメント力

新しく加わったメンバーが、十分に力を発揮できるようになるまでの期間は人によってさまざまです。
早ければ1ヶ月ほどでチームに馴染む人もいれば、
ルールやプロダクト構造を理解するのに数ヶ月かかるケースもあります。

プロダクトの背景や技術戦略まで踏み込んで理解し、
同じ目線で議論できるようになるには、やはり一定の時間を見ておくのが現実的です。

この期間はバグが増えたり、既存メンバーの稼働率が下がったりする。
つまり、「増員直後が最も遅くなる」時期をどう乗り越えるかがポイントになります。

重要なのは、その一時的な落ち込みを「失敗」と捉えないこと。
むしろ、その期間を前提に計画を立て、
チームが慣れるまでのプロセスを支えることが、結果的にスピードアップにつながります。

増員は短期的な打ち手ではなく、
中長期的な成長投資と考えたほうが、組織として健全なのではないかと思います。


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