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『ドールズ・ハイ』          第2章『境界の継承』第28話『残された同期』

―あらすじ―


通常訓練の最中、
ガルドはアルトとノアの同期状態を
直接観察する。

同期が深まった瞬間、
アルトは「誰かの呼吸」と白い光の気配を感じ、
ノアの白い亀裂も一時的に強く発光する。

ガルドは即座に同期を中断させ、
アルトに無理をしないこと、
同じ感覚があれば必ず報告するよう告げる。

その後、
レイスとバルクから
過去の記録との類似を知らされたガルドは、
現在の生徒を
過去の異常と安易に重ねることを戒める。

一方、
地下格納庫では、
大破したドライグとの同期が一瞬だけ揺らぐ。

変化するノアと、
壊れたまま残るドライグ。

その二つの機体が、
静かに過去の存在を示し始める。

第28話『残された同期』


訓練場には、
機械音と足音が絶え間なく響いていた。

複数の班が、
それぞれのゲゼールを展開させている。

カインのヴォルグは
低い姿勢から一気に前へ出て、
標的の死角へ回り込む。

高出力機らしい瞬発力を
無駄なく制御した動きだった。

別の区画ではレオンたちが隊列を維持し、
シエラたちは互いの間隔を細かく調整している。

特別な訓練ではない。

いつもの教導院の一日だった。

その中央で、
ガルドはアルトとノアを見ていた。

「アルト。
同期を開始しろ」

「はい」

アルトが意識を落とす。

ノアの感覚が、
静かに重なってきた。

いつもの同期。

そう思った。

だが、
深度が一段沈んだ瞬間だった。

――白い。

視界の奥に、
遠い光があった。

何かが立っている。

人なのか、
それとも別の何かなのか分からない。

ただ、
そこに存在している。

そして――呼吸。

自分のものではない呼吸が、
すぐ近くで聞こえた気がした。

アルトは息を止める。

「……誰……?」

返事はない。

代わりに、
金属が擦れるような音が遠くで響いた。

その瞬間。

ノアの黒い装甲に走る白い亀裂が、
淡く光った。

一筋。

それだけだった。

だがガルドの目が細くなる。

「解除しろ!」

低い声が響いた。

アルトは反射的に同期を切った。

膝に力が入らない。

「っ……」

「アルト!」

ミレイが駆け寄る。

「大丈夫?」

「うん……大丈夫。
ただ……」

アルトは胸元を押さえた。

まだ、
あの呼吸が耳の奥に残っている。

「何を感じた」

ガルドが尋ねる。

責める声ではなかった。

ただ、
経験を積んだ者だけが持つ慎重さがあった。

「……分かりません」

アルトは正直に答えた。

「白い光と……誰かがいるような感じがして。
それから、
僕じゃない呼吸が……」

「そうか」

ガルドはそれ以上聞かなかった。

「分からないなら、
分からないままでいい。
ただし、
次に同じ感覚が出たら必ず報告しろ」

「はい」

「一人で抱えるな」

「……はい」

ミレイが隣で小さく頷く。

「アルト、
無理して黙ってなくていいからね」

「分かってる」

そこへリオも加わった。

「ほんとに大丈夫? 
顔、
ちょっと青いよ」

「大丈夫だって」

「ならいいけど……」

少し離れた場所から、
カインも声を掛けた。

「無理なら言えよ」

「分かった」

「それだけだ」

カインはそれ以上踏み込まず、
ヴォルグの待機位置へ戻っていった。

その様子を、
ガルドは黙って見ていた。

やがて訓練終了の合図が響く。

生徒たちが機体を戻していく中、
ガルドはノアの前に立った。

約170センチの人型ゲゼール。

いつもと変わらず、
黒い装甲は静かだった。

だが、
その表面に走る白い亀裂だけが目に残る。

ガルドの視線が止まった。

ほんの一瞬。

何かを思い出しかけたように、
その表情が変わる。

しかし、
すぐに消えた。

「……」

ガルドは何も言わなかった。

そこへレイスとバルクが近づいてくる。

「ガルド教官」

「何だ」

「先ほどの同期データですが、
確認していただきたいものがあります」

レイスが端末を差し出した。

「現在の波形と、
保留している旧記録に
類似した反応が出ています」

バルクも続ける。

「完全一致ではありません。
ただ……偶然にしては妙です」

ガルドは画面を見る。

「過去の記録と、
今の生徒を軽々しく重ねるな」

「承知しています」

レイスは静かに答えた。

「ですが、
無関係とも言い切れません」

ガルドの視線がノアへ戻る。

白い亀裂。

今は何も起きていない。

「……記録は?」

「隔離しています。
閲覧権限も限定しました」

「そのままでいい」

ガルドは端末から目を離した。

「分からないものを、
生徒に背負わせるな」

「はい」

三人の間に短い沈黙が落ちた。

その夜。

地下格納庫には、
誰もいなかった。

奥に一体の巨大な機体が佇んでいる。

濃灰と暗赤。

約250センチの巨体。

大破した旧式重装型――ドライグ。

動くことも、
戦うこともない。

それでも、
ガルドとの同期だけは切れていなかった。

ガルドが静かに近づく。

「……ドライグ」

応える声はない。

ただ、
意識の底で微かな振動が生まれた。

ガルドが足を止める。

ドライグの内部。

残された同期反応が、
ほんの一瞬だけ揺れた。

「……?」

ガルドは目を細める。

そして、
何も言わずに機体を見つめた。

変わり続ける黒い機体。

壊れたまま、
そこに残る古い機体。

その二つを繋ぐものが何なのか、
まだ誰にも分からない。

ただ――過去は、
完全には消えていなかった。

格納庫の静寂の中。

ノアの装甲に走る白い亀裂だけが、
遠くで一瞬、
淡く光った。

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