「ヘルニア=手術」ではありません。 理学療法士が伝えたい、腰椎椎間板ヘルニアの話
「椎間板ヘルニアですね」
病院でそう言われた瞬間、
「このままずっと痛いのでは」
「もう手術するしかないのでは」
と不安になる方は少なくありません。
でも、ヘルニアと診断されたからといって、すぐに手術が必要になるわけではありません。
腰椎椎間板ヘルニアでは、まず手術をせずに経過を見る「保存療法」が選ばれるケースも多くあります。
さらに、飛び出した椎間板の一部が、時間とともに自然に小さくなることもあります。
理学療法士としてヘルニアの方に関わっていると、診断名そのものを怖がって、必要以上に体を動かさなくなってしまう方も見かけます。
でも、大切なのは「ヘルニアがある」という事実だけを見ることではありません。
今、体の中で何が起きているのか。
どんな症状に注意したほうがいいのか。
日常生活では、どう体と付き合っていけばいいのか。
この記事では、そのあたりをできるだけ分かりやすく整理します。
そもそも「椎間板ヘルニア」とは何なのか。

背骨は、いくつもの骨が積み重なってできています。
その骨と骨の間で、クッションのような役割をしているのが「椎間板」です。
椎間板の中心には「髄核」というやわらかい組織があり、そのまわりを「線維輪」という組織が囲んでいます。
この一部が外側へ飛び出した状態が、椎間板ヘルニアです。
そして、飛び出した組織によって周囲の神経が刺激されると、腰だけではなく、お尻や脚に痛みやしびれが出ることがあります。
いわゆる坐骨神経痛です。
ここで知っておいてほしいことがあります。
画像でヘルニアが見つかったことと、症状の強さは、必ずしも同じではありません。
画像だけを見るのではなく、
「どこが痛いのか」
「しびれはあるのか」
「力が入りにくくなっていないか」
「生活のどんな動作で症状が変わるのか」
こうした部分も含めて考える必要があります。
ヘルニアは、時間とともに小さくなることがあります。

ここは、診断を受けて不安になっている方に知ってほしいところです。
一度飛び出したヘルニアが、そのまま一生残り続けるとは限りません。
体には、飛び出した組織を処理する仕組みがあります。
その過程に「マクロファージ」と呼ばれる免疫細胞などが関わり、飛び出した組織が徐々に吸収され、小さくなることがあります。
特に、椎間板の組織が大きく外へ出たタイプでは、自然退縮が起こりやすいという報告もあります。
そのため、ヘルニアが見つかっただけで、
「すぐ手術しなければ」
と考える必要はありません。
症状や神経の状態を確認しながら、薬物療法やリハビリなどで経過を見るケースも多くあります。
ただし、すべての人が保存療法でよいわけではありません。
ここは後半で説明します。
では、日常生活では何に気をつければいいのでしょうか。

ぼくが特に伝えたいのは、
「正しい姿勢を一日中守り続けよう」
と考えすぎないことです。
人間の体は動くようにできています。
問題になりやすいのは、同じ姿勢を長時間続けたり、症状が強くなる動作を何度も繰り返したりすることです。
前かがみになるとつらい人もいれば、逆に反らすと症状が増える人もいます。
ここには個人差があります。
ですから、
「この姿勢なら絶対に安全」
という一つの正解を探すより、
「自分は何をすると症状が増えるのか」
を観察することが大切です。
今日から意識できることもあります。

まず、重い物を持つときです。
床にある荷物を取るときに、腰だけを大きく丸めた状態で持ち上げると、腰への負担が増えやすくなります。
できるだけ荷物に体を近づけて、膝や股関節も使って持ち上げてみてください。
ポイントは、
「腰だけに仕事をさせない」
ことです。
脚や股関節も一緒に使います。
次に、座りっぱなしを減らします。
デスクワークで30分、1時間と同じ姿勢が続くなら、一度立って少し歩くだけでも構いません。
腰痛があると、
「なるべく動かないほうがいいのでは」
と思う方もいます。
ただ、必要以上の安静が長く続くと、体力や筋力が落ち、動くことそのものが怖くなってしまうことがあります。
症状を見ながら、無理のない範囲で体を動かしていくことが大切です。
そして、腰だけではなく股関節も使えるようにしておきます。
しゃがむ
立ち上がる
物を拾う
歩く
こうした日常の動作では、腰だけではなく股関節も大きく関わります。
股関節まわりが硬くなっている人では、腰に動きが集中する場合があります。
ただし、ストレッチをすれば誰でも良くなるわけではありません。
脚のしびれや痛みが強くなるストレッチは無理に続けないでください。
そして、ヘルニアについては「様子を見てはいけない症状」も知っておいてください。

脚に急に力が入りにくくなった。
以前よりつまずくことが増えた。
尿が出にくい、または漏れてしまう。
便の感覚がおかしい。
お尻や股のまわりの感覚が鈍くなった。
こうした症状が出ている場合は、自己判断でストレッチや運動を続けるのではなく、早めに医療機関を受診してください。
特に、排尿・排便の異常や、進行する筋力低下は重要なサインです。
ヘルニアと診断されると、どうしてもMRIの画像が頭から離れなくなります。
「ここが飛び出しているから、自分の腰は壊れている」
そんなふうに感じる方もいます。
でも、体は画像だけでは判断できません。
症状はどう変化しているのか。
眠れているのか。
歩けているのか。
仕事や家事では何に困っているのか。
少しずつ動ける範囲は増えているのか。
こうした変化を見ることも大切です。
「ヘルニア=一生治らない」
でもありません。
「ヘルニア=すぐ手術」
でもありません。
必要以上に怖がらず、逆に軽く考えすぎず、自分の症状を見ながら付き合っていく。
そのために、理学療法士をはじめとする専門職がいます。
もし今、ヘルニアと診断されて不安になっているなら、まずは診断名だけで未来を決めつけないでください。
体は、時間とともに変わります。
その変化を見ながら、できることを少しずつ増やしていきましょう。
腰痛やヘルニアについて「これも知りたい」ということがあれば、ぜひコメントで教えてください。
いただいた質問は、今後の記事でも取り上げていきます。
※この記事は一般的な健康情報の提供を目的としたもので、個別の診断や治療を代替するものではありません。症状が強い場合や、筋力低下、排尿・排便障害などがある場合は医療機関に相談してください。
