窓台のSoaveのラベル|その後
バスの窓台に貼られていたワイン「Soave」のラベルについて、その後もあれこれ思いを巡らせている。
いったいどのような経緯でそこに貼られることになったのだろうか。
いちばん先に浮かんだのは「酔っ払い説」だ。
まあ多くの人がそう考えるのではないか。
しかし、ワインのラベルをそのままきれいに剥がすのは容易ではない。
じつは少し前に、こんなことがあった。
「あー!ビール冷やしてなかった!」と、ビンを1本、冷凍庫に入れた。濡らした布を巻いて入れるといいというのでやってみると、いい具合に冷えた。ところが、ラベルがするりと剥がれてしまったのだ。濡らしたことに加え、ビンが汗をかいたことで、紙が浮いてきたものと思われる。
きれいに剥がれたラベルの謎には、有力な候補が浮上したが、冷やしたワインを運ぶ途中で窓台に貼ったとするのには無理がある。まだ酔っ払っていない。しかも、飲む前に剥がしてしまうのはいささか不自然だ。
ふと、梶井基次郎の『檸檬』の企みも思い出したが、やはり「爆弾」のインパクトには劣る。
ここで推測は頓挫した。
*
次に浮かんだのは、はかない恋の物語だ。
若いカップル、いやそれほど若くないかもしれない。いろいろなことがありながら、ふたりは信頼を築き、将来の夢を描くようになる。
が、何らかの事情で別々の道を歩むことに。
別れの日、彼女が彼に2枚の紙を渡す。「初めて飲んだワイン、覚えてる?」
帰りのバスの中、町の明かりのにじむ雨の窓辺の青年。いつの間にか外は冷え込む季節になっている。このバスにも2人でよく乗った。彼女と、そしてこの町ともお別れだ。
ふたりがここで過ごした印に、そっと窓台にラベルを貼った。
推測というよりは、もはや妄想で、書き起こしてみると三文小説感ありありだが、とりあえず筋は通った。うん。
……いや待て。彼女はあのSoaveを冷やし忘れていたのだろうか。
「やば!忘れてた。冷凍庫でいけるかな」
それはそれで思い出のひとつかもしれないが、演出としてはないほうがいいだろう。
青年が窓台に貼るシーンにも違和感がある。
一度剥がしたワインのラベル、そんなに都合よく窓台にくっついてくれるだろうか。
まさか、たまたまスティックのりを持っていて、そこで隅々まできっちり塗って貼りつけたなどということはあるまい。
信頼の日本製ならともかく、けっこう怪しいものも多い。「くそ、つかねえ」という事態も考えられる。
格闘ののち、めでたくピッタリと貼れた充実感──ますますはかない恋からは離れていった。
やはり、バスの窓から注ぐ日差しにワインのぶどう畑を思う、ぐらいでちょうどいいのだろう。妄想はけっこう疲れる。笑
