見出し画像

夕暮れの教習所バスと、空腹の帰り道

夏の終わりから秋にかけて、少しずつ日が短くなっていくこの季節になると思い出すことがある。

それは、自動車教習所に通っていた頃の記憶だ。

当時の私は、学校の授業が終わると、いつもそわそわしていた。急いで家に帰り、カバンを置いてすぐに教習所の送迎バスに乗り込まなければならなかったからだ。

バスの窓から見える街並みが、夕暮れから少しずつ夜の顔へと変わっていくのをぼんやりと眺めていた。教習所に着くと、そこには独特の緊張感が漂っている。見慣れない標識、S字クランク、そして隣に座る教官。ハンドルを握る手には、いつもじっとりと汗をかいていた。

実技も学科もこなし、すべての教習を終えて送迎バスで家の近くまで戻ってくる頃には、すっかり夜遅くになっていた。

バスを降りて、夜風を浴びながら家までの短い距離を歩く。その時に決まってやってくるのが、強烈な「空腹感」だった。

運転席で張り詰めていた緊張の糸がぷつんと切れて、心底ホッとした瞬間に、「ものすごくお腹が空いた!」という圧倒的な身体の欲求が押し寄せてくるのだ。

あの夜遅くに家に帰り着き、家族が残しておいてくれた温かいご飯を食べたときの美味しさは、今でも忘れられない。特別なご馳走ではなくても、緊張から解放された安堵感という最高のスパイスがかかっていた。

今となっては当たり前のように車を運転しているけれど、あの頃は「車を動かす」というただそれだけのことに、文字通り全身全霊を傾けていた。

日が落ちるのが早くなってきた今の季節の夕暮れ時、ふとあの教習所のバスの揺れと、あの夜の異常なほどの空腹を思い出す。何かに一生懸命に向き合っていた、愛おしい記憶の1ページだ。

いいなと思ったら応援しよう!