ありがとうが生まれた日
「ありがとう」
この五文字を言えるようになるまで、私には長い時間が必要でした。
でも、昔の私は、誰にでも「ありがとう」が言えなかったわけではありません。
ただ、あの人にだけは、どうしても言えない言葉でした。
「どうして分かってくれないの?」
「どうして私の思うようにしてくれないの?」
不満の矛先は、いつもあの人に向いていました。
私は自分の気持ちを守り、正当化することに必死で、自分の心を見る余裕なんてありませんでした。
でも、時間は不思議です。
一人になって少しずつ心が落ち着いてくると、当時の出来事を、少し離れた場所から見られるようになりました。
すると、それまで見えていなかった景色がありました。
私は不満と自分の正しさばかりを見ていたけど、その時間の中には、たくさんの優しさや思いやりもあったことにも、気づけたのです。
その時、初めて思いました。
「ありがとう」と伝えたい。
この先の人生を歩いていくために、今の私の言葉で、
あの人に「ありがとう」を伝えたい。
そう思いました。
その夜、一本の電話をかけました。
ずいぶん時が経ってからの電話。
果たして出てくれるのかと、胸が高鳴りました。
「もしもし?」
聞き慣れたあの人の声でした。
私は勇気を出して、一言だけ伝えました。
「ありがとう」
するとあの人は少し驚いたように笑って、
「どうした? 遺書でも書くつもりか?」
と言いました。
私も思わず笑ってしまいました。
照れ隠しのように。
そして、笑いながら涙が一筋流れました。
あの日まで流してきた涙とは、まるで違う涙でした。
温かい涙というものが、本当にあるのだと、その時初めて知りました。
あの一本の電話で、過去が消えたわけではありません。
何かが劇的に変わったわけでもありません。
それでも、止まっていた私の時間が、0.1秒だけ動いた気がしました。
たった0.1秒。
でも、その0.1秒があったから、今の私があります。
振り返ると、私はあの人に「ありがとう」が言えなかっただけではなく、あの頃の自分にも、「ありがとう」が言えていなかったのかもしれません。
「あの時は、一生懸命だったね」
「苦しかったね」
「それでも、ちゃんと生きてきたね」
そんな言葉が、少しずつ自分の中にも増えていきました。
すると、不思議なことに、
人から受け取っていた優しさにも気づけるようになりました。
私は決して、一人でここまで来たわけではありませんでした。
たくさんの人に支えられ、受け止めてもらいながら、生きてきたのです。
私は、「ありがとう」は相手に届けるための言葉だと思っていました。
でも、本当は違いました。
「ありがとう」と口にしたその言葉は、相手だけではなく、私自身の耳にも、心にも届いていました。
そして、一番救われたのは、私自身だったのかもしれません。
人は、大きく変わる日ばかりではありません。
止まっていた時間が、0.1秒だけ動く日があります。
あの日、私の中に小さな「ありがとう」が生まれました。
その小さな「ありがとう」は、誰かへ向けた言葉であると同時に、前を向いて歩き始める私自身への一歩でもありました。
あの日動いた0.1秒を、私はこれからも忘れずに、大切に生きていきたいと思っています。
✨心より感謝を込めて
「ありがとうが生まれた日」をマガジンに迎えてくださった皆さま、
本当にありがとうございます。
大切な場所に置いていただけたこと、心より感謝しています🍀
ご紹介いただいたマガジン
💐ふあふあころね さん
💐ボンちゃん さん
💐のぞみん|揺れる乙女、44歳 さん
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小さなあとがき
あの日生まれた
「ありがとう」の気持ちを、
これからも大切にしていきたいと思います🍀
最後まで読んでくださり、ありがとうございました
