百三十七グラムの不可逆
薄いレジ袋から
直径八センチの果実を取り出す
常温の皮は乾いており
指先で叩くとコンコンと
硬い音が中指の骨を振動させる
水道の蛇口をひねり
冷水を果皮の表面へ
叩きつけるように当てる
水流が当たった部分から
表面温度が下がり
指腹へ冷たさが直接伝わる
ワックスの滑らかな手触りと
茎の根元に残る乾燥した茶色い凹凸
左手で果実を支え
ペティナイフの刃先を
赤と緑の境目に
浅く滑り込ませる
刃先は球体に沿って
円弧を描き
削ぎ落とされた
一本の長い赤い帯が
左手の甲へ巻きついて垂れ下がる
皮を剥き終えた
裸の果実をまな板に置き
刃を頂点へ
垂直に突き立てる
サクという硬い音とともに
真下に押し切り
八等分へと切り分ける
角立ったくし形の一片を
指先でつまみ
中央のV字に固まった芯と
黒い種二個を
斜めに刃を入れて一押しで削ぎ落とす
切り口から滲み出る果汁が
指のシワに溜まり体温でぬるくなる
そのまま一片を唇にはさむ
前歯が果肉を押し潰す
噛み砕く音が口腔から鼓膜へ直接響く
喉の奥へ滑り落ちる塊の重さ
通過した直後
胸骨の裏側に水滴の冷たさが
一瞬だけ残り
すぐに消える
舌の表面に残るのは
酸味によって収縮する唾液腺の感覚と
果汁が乾いて親指と人差し指が
ペタペタと密着する不快な摩擦感
テーブルの上に残された七片の果実と
丸まった赤い皮の帯
まな板に付着した水滴は動かない
顎の関節が一回鳴り
胃のあたりに
百三十七グラムほどの固形物が収まる
外気に触れた切り口の白さが
三分も経たないうちに薄い茶色へ変色する
