〚お客をえらぶギター奏者の物語(仮題)〛通し番号103. 《歩み出す》(27)

「マヤさんの覚悟のほどは、よくわかりました」
そう言うしか 無いではないか。
「ただ、知っていると思うが、うちの工房では
1年や2年 修業すれば一人前、というわけにはいかない」
「ハイ」
「今回のように 家族に急なことがあった時などは、遠慮なく 私に相談しなさい。
また 家族や友人の冠婚葬祭のある時も、休みを取る権利があるから 申し出るように。
往復の交通費も 心配要らないから」
「ハイ、アリガトウゴザイマス」
世話役も マヤと一緒に頭を下げる。

今日は 車を工房に置いて来たので、電車で帰ろうと駅へ向かう。
ホームで「あっ、オ ヤ タ カさーん」
あどけない声に 力いっぱい呼ばれ、見ると 坊や母子が手を振っている。
「おう、こう君 こんにちは。この町にご用ですか?」
「いいえ、何も 用事は無いのですが、
ここは 貨物列車がよく通るので、それを見に 時々来るんです。
一度来ると 1時間は動いてくれないんですよ」
「ああ、電車見学ですか」
他愛のない子供らしさに ホッと心がほどける思いがする。
「親方さんは、マヤさんのところへ…?」
「そうなんです、昨日は 電話をありがとうございました」

坊やが 赤や青、色とりどりのコンテナを連ねた 長い列車に見とれている間、
ベンチに座り 母親に報告をする。

(この物語は おとぎ話です。登場する人びと、場所、出来ごと等 全て 架空の存在であり、モデルはありません。こんな人びとがいたら良いな、と願って書いているところはあります。)

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