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デザインは育つ。10年前につくった刺繍が、滋賀で新しいバッグになりました。

約10年前の春。
私は東京・中目黒で、洋服の販売イベントに参加していました。

天気のよい日の休憩時間。少し外を歩こうと思い、公園を散歩していると、道端に咲いている植物が目に留まりました。

気になった植物を簡単にスケッチしたり、写真に撮ったりして、記憶を書き留めるように残していく。そのとき集めた植物の記録から、ひとつの刺繍図案が生まれました。

それが、muucの「筆記帳刺繍」です。

あの日、公園で見つけた植物が、約10年後、滋賀県の縫製工場でバッグになるとは、もちろん想像していませんでした。

今回は、長い時間をかけて育ってきた筆記帳刺繍と、ヌノニシタイとの新しいものづくりについて書いてみたいと思います。


植物は、ずっと創作の出発点だった

私は学生のころから、植物を自身のクリエイションのテーマとして扱ってきました。

植物そのものを直接描くこともあれば、かたちや色、表面の質感から着想を得ることもあります。一見すると植物とは関係のないデザインであっても、アイデアをたどっていくと、その出発点に植物がある。

私にとって植物は、長い間、ものをつくるための大切なインスピレーションでした。

そうした制作を続ける中で、植物の姿を糸で直接描いたものには、お客様の関心を引き寄せる力があることに気づきました。

刺繍糸の線によって描かれた植物は、絵やプリントとは少し違います。

糸の盛り上がりや光の当たり方によって表情が変わり、近くで見ると、一針一針の動きまで感じられます。

中目黒の公園で集めた植物の記録をもとに、そんな糸の線で描いたのが、筆記帳刺繍でした。

小さなブランドは、毎シーズンたくさんの図案をつくれない

筆記帳刺繍も、毎シーズン生まれてくる新しい表現のひとつでした。
ファッションブランドは、新しいものを発表し続ける仕事でもあります。

新しい生地を考え、図案を描き、色を決め、試作をつくる。完成するまでには何度も調整が必要です。

もちろん、制作にはたくさんのお金がかかります。

小さなブランドが、毎シーズンいくつもの新しい刺繍図案をつくり続けることは、簡単ではありません。

だからこそ、一度つくった図案を、ひとつのシーズンだけで終わらせず、違う生地や色、アイテムに展開しながら育てていくことも大切なのではないか。

筆記帳刺繍も、そんな考えの中、育った図案でもあります。これまで、洋服や日傘をはじめ、最近ではスツールの座面にも使ってきました。

素材が変わる。色が変わる。仕立てるものが変わる。そのたびに同じ図案が、自分でも驚くほど違う表情を見せてくれました。

筆記帳刺繍以外にも、これまでたくさんの刺繍を制作してきました。その中でも、この図案には不思議と人を引き寄せる力があるように感じます。

最初から「ブランドを代表する図案をつくろう」と考えて生み出したわけではありません。

私たちが素材やアイテムを変えながら発表し、それをお客様が見つけ、選び、長く愛してくださった。その繰り返しによって、筆記帳刺繍は少しずつmuucを象徴する存在に育っていきました。

デザインは、デザイナーが完成させた瞬間に完成するのではない。

使ってくださる方と時間を重ねることで、育っていくものなのかもしれません。


きれいに整えることだけが、美しさではない

筆記帳刺繍のもとになっているのは、手で刺した刺繍です。

私はもともと手仕事が好きで、手の動きから生まれる揺らぎの美しさを、活動を始めたころから大切にしてきました。

手で糸を刺していくと、針目や線は完全には揃いません。
少し曲がったり、糸の密度に差が生まれたりする。

けれども、その不揃いな部分に、人の手でつくられたものならではの温度や豊かな表情が宿るのだと思います。

機械刺繍では、針目や線を均一に、きれいに整えることができます。

しかし、筆記帳刺繍を機械刺繍へ落とし込むとき、最初から均一さだけを目標にはしていません。

整いすぎてしまえば、もとになった手刺繍の魅力が失われてしまうからです。

手刺繍が持つ揺らぎや、ほどよい粗さ。

そこに、機械刺繍だからこそつくることのできる密度や立体感、安定した美しさを重ねていく。

手仕事の温かさと機械刺繍の技術。その両方が感じられることが、この刺繍生地の大切な個性です。


縫製を「裏方」で終わらせない人たち

今回、筆記帳刺繍を使って一緒にバッグをつくったのが、滋賀県高島市の「ヌノニシタイ」です。

中矢さんとの出会いは、私が日本製の製品を積極的に販売する活動をしていることを知り、声をかけてくださったことがきっかけでした。

その後、中矢さんが以前勤めていた縫製工場へ、私たちもバッグの製造などをお願いするようになりました。

やがて中矢さんが独立し、ヌノニシタイとして新しいものづくりを始めたことを知りました。

ヌノニシタイ アトリエ兼ショップ

私は陰ながら、その活動を応援していました。

私自身、22歳からファッションデザイナーとして活動し、さまざまなプロジェクトを一から立ち上げてきました。

新しいブランドや仕事を形にすること。そして、それを続けていくこと。その大変さは、私なりによく分かっているつもりです。

ヌノニシタイが、縫製を単なる裏方の仕事として終わらせず、つくる人や技術、ものづくりの工程まで、自分たちの言葉で届けようとしていること。

その姿勢に、私は尊敬と共感を感じていました。

いつか何かご一緒できたらと思っていたので、今回お声がけをいただいたときは、迷うことなく「ぜひ」とお返事しました。


最初に目が行ったのは、三つ編みの持ち手だった

完成したバッグを見たとき、最初に目が行ったのは、持ち手の三つ編み部分でした。

バッグ自体は、比較的シンプルで王道ともいえるデザインかもしれません。そこに、一本ずつ縫い上げた持ち手を編み込むことで、力強い立体感と、ヌノニシタイならではの個性が生まれています。

シンプルな形を大切にしながら、三つ編みに込めたコンセプトや、素材の持ち味を上手に組み合わせている。とても素晴らしいデザインだと思いました。

ヌノニシタイの三つ編みには、人と人、つくり手と使い手、地域とものづくりをつなぐという意味が込められているそうです。

今回のバッグは、その三つ編みの持ち手と、筆記帳刺繍の植物の線や色、糸の凹凸が重なっています。

ヌノニシタイの力強く美しい造形。確かな縫製技術。
そして、私たちが約10年育ててきた刺繍生地。

それぞれが持っていた個性を消すことなく、互いの魅力を引き出し合う、特別なバッグになったと思います。


これまでのネイビーと、これからのホワイト

今回は、ネイビーとホワイトの2色をつくりました。

ネイビーは、長い時間をかけて育ててきた色の組み合わせです。落ち着いたベースカラーに、グリーンやブルー、イエローなどの刺繍を重ねています。

日頃、コーディネートに色を取り入れることが少し苦手な方にも、自然に持っていただけると思います。装いになじみながら、刺繍の存在感も楽しめる色です。


一方、ホワイトは、今年のコレクションのために生まれた新しい色合わせです。

明るいホワイトをベースに、赤やグリーンなどの色を効かせました。華やかさがありながらも、上品に持っていただけるように仕上げています。

私にとって、ネイビーはこれまで積み重ねてきた時間を感じる色。
ホワイトは、これから始まる新しい時間を感じる色でもあります。


10年育った図案を、次の使い手へ

先日、株式会社ウールスタジオとAND WOOLが10周年を迎えたことをnoteに書きました。振り返ってみると、筆記帳刺繍も、ほぼ同じ時間をお客様とともに歩んできました。

公園で見つけた小さな植物。それをスケッチや写真に残し、手で刺繍し、機械刺繍の生地にする。その生地が洋服や日傘になり、多くのお客様のもとへ渡り、今度は滋賀県の縫製工場でバッグになりました。

デザインは、完成した瞬間に終わるのではありません。

つくる人、使う人、そして時間によって、新しい意味を持ちながら育っていく。

今回のバッグを見ていると、改めてそんなことを感じます。このバッグが完成したことも、筆記帳刺繍のゴールではありません。

誰かが手に取り、毎日のお出かけに連れていってくださることで、この図案の新しい時間が始まります。

刺繍糸がつくる立体感や色の重なり。三つ編みの持ち手の造形。そして、細部まで丁寧に縫い上げられた縫製。

ぜひ実際に手に取り、二つのブランドのものづくりがつながったバッグを楽しんでいただけたら嬉しく思います。



muuc × ヌノニシタイ

「筆記帳刺繍 × 三つ編みバッグ」

カラー:ホワイト/ネイビー
Mサイズ・同生地ショルダー付き
価格:27,500円(税込)

抽選受付期間
2026年8月29日(土)20:00〜9月6日(日)20:00

ヌノニシタイオンラインショップにて抽選販売されます。


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