全ての行動は種の保存が目的である
「良い仕事に就いて、高い給料をもらいたい」
そう思ったことがない人は、たぶんいない。
でも、少し立ち止まって考えてみてほしい。
なぜ、私たちはそこまで熱心に、
地位や収入を追い求めるのだろうか。
食べていくためだけなら、
必要な金額には限りがある。
それでも人は、
もっと上を、
もっと安定した立場を、
もっと認められる場所を求め続ける。
生物学者エドワード・O・ウィルソンは、
1975年の著書『社会生物学』の中で
こう言い切った。
「生物とは、DNAがさらなる
DNAを複製するための手段に過ぎない」
私たちが「良い仕事」や「高い給料」を
求めるのも、突き詰めれば、
自分の子孫を残しやすくする
ためなのかもしれない。
なぜ「地位」や「資源」がここまで重視されるのか
進化心理学者ロバート・トリヴァースは
1972年に発表した「親の投資理論」の中で、
妊娠・出産という大きなコストを
負う側は相手選びに慎重になり、
そうでない側は相手を得るために競争する、と論じた。
この理論を裏付けるように、
心理学者デビッド・バスが
1989年に37の文化圏、
約1万人を対象に行った調査では、
37文化中36文化で、女性は男性より
「経済力の高さ」を配偶者の条件として
重視していることがわかっている。
つまり、
「良い仕事に就いて、高い給料をもらう」
という行動は、個人の趣味や価値観である以前に、
何万年もかけて磨かれてきた、
配偶者を得るための戦略だという見方ができる。
権力を極めた者が、遺伝子も広げた

13世紀にモンゴル帝国を築いたチンギス・ハン。
2003年の遺伝学研究では、
アジア各地の男性の約8%が
チンギス・ハンの一族に由来するとみられる
共通のY染色体系統を
持っていることがわかった。
論文発表当時の人口に換算すると、
およそ1600万人にのぼる。
この研究は、直接の証明ではなく
推定にすぎないという指摘もある。
それでも、地位や権力を極限まで
追い求めた末に、その遺伝子を
誰よりも広く残すことになった人物がいた。
この事実は変わらない。
ただし、それがすべてではない
とはいえ、人間の行動が全て遺伝子に
操られているだけだと考えるのも早計だ。
進化心理学は、こうした傾向が
なぜ生まれやすいのかを説明する
一つのレンズであって、
「だから今の行動は仕方がない」
という結論を保証するものではない。
本能の傾向を自覚した上で、
それとは違う選択をする力も
また、人間らしさなのだと思う。
この視点を、どう使うか
「自分の行動は、
結局は種の保存のためだったのか」
こう知ることは、
どこか虚しく感じるかもしれない。
でも、見方を変えると、
これは自分を責めなくていい理由にもなる。
「良い仕事に就きたい」
「認められたい」
そうした欲求を、
意志の弱さや見栄だと思っていたなら、
それは何万年もかけて仕込まれた、
生き物としてごく自然な
衝動だったのかもしれない。
今日からできることがあるとすれば、
それは難しいことではない。
自分の中に
「地位や資源を求める衝動」があると
認めた上で、それに振り回されるだけでなく
その衝動が今、自分をどこに
向かわせようとしているのかを、
一度立ち止まって眺めてみることだ。
衝動そのものを消すことはできない。
でも、その衝動に名前をつけられるように
なるだけで、選択の余地は少し広がる。
「良い仕事に就いて高い給料を得たい」
この衝動の奥には、こうした進化的な
理由がある一方で、子供時代の環境が
「今すぐ資源を確保したい」
という感覚を強めることもある。
そのあたりの研究については、
「お金か、愛か」に迷ったらという記事でも触れているので
興味があれば読んでみてほしい。
過去の記事:「お金か、愛か」に迷ったら⬇️
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参考
Wilson, E. O. (1975). Sociobiology: The New Synthesis. Harvard University Press.
Trivers, R. L. (1972). Parental investment and sexual selection.
Buss, D. M. (1989). Sex differences in human mate preferences: Evolutionary hypotheses tested in 37 cultures. Behavioral and Brain Sciences, 12(1), 1-49.
Zerjal, T., et al. (2003). The genetic legacy of the Mongols. American Journal of Human Genetics, 72(3), 717-721.
Genetic descent from Genghis Khan|Wikipedia
