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霞だけでは生きていけないからね

通勤路の、とある住宅のブロック塀に朝顔が植わっている。今年の夏のまだ猛暑が本番を迎える前、朝顔ってあまり見なくなったな、と思っていた矢先に見つけた。朝顔の花の色は、紫陽花の花のそれと似ている。ベースの青や紫のバリエーションの豊富さや、白の出具合や。朝顔は薬用に使われたり、逆に毒性を持っていたりして、からっとしている花の形からは想像がつきにくいなと思ったりする。繁殖力が強そうなのは、でもそういう特性があるからか。てくてくてくと通り過ぎるほんの十秒くらい、そこを通るたびに朝顔にまつわるあれやこれやを思い出したり、思い出さなかったりしていた。

花も盛りを過ぎた頃、朝顔は黒い種を落とす。朝顔は支柱に沿って、地面から縦にのびている。朝顔は、支柱がないとまっすぐのびないし、摘芯しないと花の数も増えないらしい。人間みたいやん。ていうかわたしみたいやん。支えがないとまっすぐ育たないとか、不要なものは(一見きれいに見えても)えいっと摘まなきゃいけないとか。支柱なしで育てると地面に倒れ込むようにへたれてしまって、挙句、病気になることもあるのだとか。えっと、それは、わたしですか…?

猛暑の中、その朝顔も黒い種を落としていた。自分の出番が終わったら、潔く次のいのちにバトンタッチするみたいに。住宅街の地面はコンクリートで、その焼けつくような地面に種を落としたところで次のいのちは生まれない。朝顔はそんなことは自明の理というように、ブロック塀とコンクリートの隙間の、ひび割れて見える土の地面にぽとりと種を落としていた。うまいことやるね、きみ。いのちってのはこうやって、奇跡みたいにつなげていくものなんだぜ。ありふれたような言葉が、ぜんぜんありふれていないような場所で発せられている。



園芸が趣味の知り合いから、今年もできたよとゴーヤをもらった。マンションのベランダでもプランターで気軽に育てられるよ、と毎年植えているらしい。水やりは欠かせないけど、ほとんど水を飲んでるだけで、こうやって青くて苦い生き物が育つなんて不思議だよねえ。ゴーヤを「生き物」と表現する彼女にびっくりするような感心するような気持ちになりながら、ありがたくいただく。

新鮮なゴーヤは生で食べるのが好きなので、その日さっそく和え物にする。和えるのはツナや鯖の水煮缶、オイルサーディン、なければちくわや鰹節でも事足りる。味付けは、ぽん酢しょうゆやめんつゆ、マヨネーズを足したり、そのままだったり。仕上げに胡麻をぱらっとして完成。

もらったゴーヤは、そういう品種なのか細身でまっすぐ青い。先端は白っぽくて、それが若い証拠なのか熟した結果なのかわからないまま縦半分に切ったら種は赤みを帯びていて、これはいい感じに熟しているのだと知る。切ってみないとわからないポーカーフェイス。

切ろうとすると思いのほかぐにゃっとしている。鮮度は高いはずなのに、ぱりっとした水気というより湿度の高いおばあちゃんの肌みたいな質感だった。薄く切っていこうとするも、弾力があまりにやさしくて包丁がよろめく。
『ゴーヤおいしかったよー、ありがとう! でも、こんにゃくみたいにぐにゃぐにゃやった。あの子、自分がこんにゃくかと思って育ってたのかな…?』
『たぶん私を見習って柔軟とかしてたんやわ』
お礼のメッセージのやり取り。どうかするとずいぶん失礼なことを書いた気もする。



こうやって、内側を向いてばかりいる気がする。内面を丁寧に見つめることは大事なこと。と、わたしは信じて生きている。
あらためて、自分を大切にする、ということは本当にバランスが難しいなと思う日々だ。わたしは自分の不具合で不義理を働きがちだし、機会損失の場面もたくさんあったように思う。仕事や優先順位の高いもの、迷惑のかかる範囲が広いものに関してはできるだけそのようなことが起きないように努めるが、キャパシティーが変わらない以上、どこかにそのぶんの皺寄せが来る。それだってできるだけひとりで解決できる範囲に留めようとしているが(ひとりで計画していた外出をやめる、そして先回りしてバッファを生み出しておくなど)、誰かと予定していたことをキャンセルしたり、誘いを断ったりすることもある。申し訳ないと思っているし、そうやって大切にしてくれている人のことは、もっとわたしからも大切にする働きかけや努力が必要なのでは、という不安や強迫に駆られたりする。

他人と関わるにはある程度のエネルギーが必要で、そのために「自分を大切に」しておくことが必要なのだ。罪悪感や不安がよぎるのは当然のことかもしれないが、利他的であるには、まず利己的にならないといけない。そういう視点を持ってみたら楽かもしれないよ、という自分への手紙。晴れた休日に、誰かと関わることを避けて、引きこもって朝顔やゴーヤが云々と書いていたっていいのだ。ここで貯金したエネルギーは、誰かのために使おう。どういう形でかはわからないけれど。




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