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「叱っても響かない」「指示しても動かない」——子育てと部下育成、実は同じ壁にぶつかっている


子どもがなかなか言うことを聞いてくれない。部下に指示しても、思うように動いてくれない。まったく別の悩みに見えて、実はその根っこには共通するものがあります。今回は、子育てにも職場のマネジメントにも応用できる「人との関わり方」のヒントを、心理学の知見も交えながらまとめます。

1. まず知っておきたい、共通する原則

子育てと部下育成、どちらの分野でも繰り返し指摘されているのが、「関係性の土台」の重要性です。

職場においては、心理的安全性という概念がその代表例です。心理的安全性とは、組織やチームにおける立場に関係なく、対人関係性において従業員一人ひとりが自由に発言できる状態を指します。Googleが約180のチームを対象に4年かけて行った調査では、優秀な人材が多いチームよりも、心理的安全性が高く協力的なチームほど学習が進み、高い成果(生産性)が向上することが示唆されました。

子育ての領域でも、似た発想が語られています。両親が肯定的な言葉かけをしていた子どもほど自己肯定感が高く、自分で考えたり行動したりする力が強い傾向にあるとされています。そしてこの自己肯定感は、短期間で大きく変化するものではなく、日々のコミュニケーションや経験の積み重ねによって上がったり下がったりするものだといいます。

つまり、子どもであれ部下であれ、「安心して話せる・行動できる」という土台があって初めて、本来の力を発揮できるようになる、という点は共通しているようです。

2. 「変えよう」とする前に、自分の接し方を振り返る

もう一つ、両方の領域に共通する重要な視点があります。それは、相手を変えようとする前に、自分自身の関わり方を見直すという発想です。

マネジメントの文脈では、次のような指摘があります。「部下がなかなか本音を言ってくれない」「自分から動かず、指示待ちになってしまう」——そんなもどかしさを感じるたび、つい相手の性格やモチベーションに原因を求めてしまいたくなります。そこで意識したいのが、「部下を変えよう」とする前に、まずは「自分自身の接し方」や「今の環境」がチームにどんな影響を与えているのかという視点です。

この考え方は、子育てにもそのまま当てはまります。子どもが叱られても何度も同じことをしてしまう場面で、つい「この子はどうしてわからないんだろう」と感じてしまうこともあるかもしれません。しかし、伝え方や環境の整え方を少し変えるだけで、相手の受け取り方が変わることは少なくないようです。

3. 「できていないこと」より「できていること」に目を向ける

具体的な声かけの工夫としてよく紹介されるのが、できている行動に注目するという方法です。

子育ての現場では、こんな具体例が紹介されています。「ランドセルから出して持ってきたのね」「1問目、ちゃんと解けているよ」「昨日よりスピードアップしたね」など、できている行動を保護者が言語化していくことで、「見てくれている」という気持ちが満たされ、心も安定しやすくなるとされています。「叱りルートではなく、ほめルートでたどり着けないか」と考えてみることが、良い導きにつながりやすいという指摘もあります。

職場での関わり方でも、同じ発想が有効とされています。部下が上司に求めているものは、「自分の行動に関心を持って、注視してくれている」という実感を得ることだとされ、上司が好奇心を持って部下と接すること、きちんと相手の目を見てポジティブな表情と仕草で向き合うことが、部下の安心感につながるといいます。

「ダメなところを指摘して直させる」よりも、「できていることに気づいて言葉にする」方が、結果的に相手の行動が良い方向に育っていきやすい、という考え方は、子育てと部下育成のどちらにも共通しているようです。

4. 最初の反応が、その後の関係を左右する

見落とされがちですが、非常に重要なのが「相手から話しかけられたときの、最初の反応」です。

マネジメントの領域では、次のような指摘があります。部下から声を掛けられたリーダーが、最初にどのような反応を示すかは非常に重要です。リーダーの最初の反応次第で、その後のコミュニケーションが円滑に進むこともあれば、有効なコミュニケーションが取れなくなってしまうこともあるといいます。忙しいときについ素っ気なく返してしまったり、否定的な反応から入ってしまったりすると、次第に「この人には相談しにくい」という空気が積み重なっていくということです。

子育てにおいても、子どもが何かを話しかけてきたときの最初の受け止め方は、その後の子どもの「話してみよう」という気持ちに直結します。忙しい時ほど、つい後回しにしたり、気のない返事をしてしまったりしがちですが、まず一度しっかり受け止めるという姿勢が、長期的な信頼関係の土台になるようです。

5. 「対等な関係」という発想

もう一つ紹介したいのが、子育て心理学の分野で語られる「対等な関係」という考え方です。ある子育て理論では、親子は対等な関係であるべきだとされ、親の心構えが上下関係のままでは、良かれと思った関わりもかえって悪影響になる可能性があると指摘されています。

これは、職場における心理的安全性の考え方とも重なる部分があります。心理的安全性が高い職場では、立場に関係なく、難しい問題を直接話し合えたり、失敗を正直に共有できたりすることが特徴だとされています。「上司だから」「親だから」という立場の力で相手を動かそうとするのではなく、対等な人間同士として向き合う姿勢が、結果的に相手の自発的な行動を引き出しやすくする、という点は、子育てと職場マネジメントに共通する土台と言えそうです。

まとめ:今日から意識したい3つのこと

  • できていることに、意識的に気づいて言葉にする:欠点の指摘より、良い行動への言及の方が、相手の自発的な変化を促しやすい。

  • 相手が話しかけてきた瞬間の反応を大切にする:最初の受け止め方一つで、その後「話しやすい相手」かどうかが決まっていく。

  • 相手を変える前に、自分の接し方を振り返る:性格や能力のせいにする前に、自分の関わり方や環境の整え方に目を向けてみる。

子育ても部下育成も、「思い通りに動かす」ためのテクニックというより、相手が安心して力を発揮できる土台をどう作るか、という共通のテーマに行き着くようです。すぐに結果が出るものではありませんが、日々の小さな声かけの積み重ねが、長い目で見て一番の近道になるのかもしれません。

なお、本記事は一般的な子育て・マネジメントの考え方を紹介するものであり、特定の心理状態の診断や、個別の状況への断定的なアドバイスを意図したものではありません。深刻なお悩みがある場合は、専門機関への相談もあわせてご検討ください。

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