『静かなる力』気功師・浜嶋正憲(プロット小説・ドラマ原作)エピソード12
エピソード12
旧友との再会・静かなる力
1. 初めての日本
成田空港到着口
小さなキャリーバッグを引きながら、ジェームス・レットフォードが現れた。
空港内をキョロキョロしながら何かを探していた。
ライトグレーのアルマーニ―のスーツで身を包んだ長身で金髪の男は、一瞬で女性たちの注目の的となる。
彼の甘いマスクに魅了された乙女たちは視線をジェームスに向けたままだ。旦那がいようと、恋人がいようともそれは関係なかった。
通り過ぎると、ほのかに香るオーデコロンに、女性たちは立ち止まり目をつぶり
妄想にふける。時折視線を合わせ、サービスウインクをする。女性は
その場に座り込み、呼吸を整えた。
ジェームスが向かう先は、空港内にある評判のいいラーメン店
スマホで情報を見ながら、ためらうこともなく店に飛び込んだ。
店内は空港という事もあり、多くの外国人客で賑わっていた。
ジェームスは自動販売機で、とんこつ醤油ラーメンのチケットを購入した。
カウンターに座り、5分ほどで商品が運ばれてきた。
初めて食べるラーメンに、いささか興奮している。
スマホで写真を撮る。そして一口スープを飲み込んだ。
口に広がる濃厚な味わい、ジェームスは生まれて初めて味わうラーメンのうまさに奇跡と感動で言葉を失った。
「うますぎる」
チャーシューを一口で頬張る。思わず体がのけぞった。
「なんだこりゃ」
英語で叫んでしまう
どんぶりに入ったスープと麺,そして具。
麺を箸で口に運んだ。
回りの外国人観光客も夢中で食べていた。
ふと厨房に目を向けると、欧米人がラーメンを盛り付けていた。
目を丸くした時だ。
メールの着信音
ジェームスはテーブルに置いたスマホに目を向けた。
その内容を見て、食べていた箸を止めた。
(ターゲット:浜嶋正憲 画像 データ)
うまいはずのラーメンがその画像を見た途端、食べられなくなった。
静かに立ち上がり、店を後にした。
何度も送られたデータを確認した。誤送信ではなかった。
*
ジェームスは、空港近くのホテルにチェックインした。
昔の仲間に電話をしている。
道具の手配をしているようだ。
メールでは詳細なデータが送られていた。
報酬は1億円
前金で5千万円、完了時に5千万円、この額はブローカーが提示した金額
実行する者の報酬になる。
ホテルの狭い部屋を何度も歩き回り、落ち着かない。
日本に到着してから仕事の内容がブローカーから伝えられた。
時刻は24時を過ぎていた。
グラスにウィスキーを注ぎ一気に飲む。ボトルはすでに半分以上空いていた。
そして薬を取り出した。処方されている睡眠薬、もう一度、グラスにそそぎ
薬を口の中に放り投げ、ウィスキーを飲みギイッと飲み干した。
ベッドに入り天井を見つめる。ただ時間だけが過ぎていく――
半身体を起こす。
もう一度寝る。時計を見ると2時を過ぎていた。
何度も深呼吸を繰り返した。
起き上がり、窓から夜の成田の街を見つめた。
2. 旧友との再会
タクシーが萬福寺の参道前に停まった。
ジェームスが紙袋を持って降りてきた。
長い参道の階段を見上げて、ゆっくりと登り始める。
階段を登りながら、ケンとの日々を思い出していた。
あの日、あの時、ケンが誤爆の責任を強く感じていた。
その時のシーンが蘇る――
お寺の正面入り口に行くと、ちょうど恵理子と連れ違う。恵理子は頭を下げ
「いらっしゃいませ、ご用件は何ですか」流暢な英語で挨拶をした。
ジェームスは英語で
「こんにちは、ハマシマさんいますか」
「先生は今、療術中です。中でお待ちください」
恵理子は客室に案内し、お茶とお菓子でおもてなしをした。
落ち着いた日本の和室、床の間、ジェームスはなんだか落ち着かず、立ち上がったり、座ったりしていた。
15分位すると浜嶋が障子を開けて入って来た。
しかし、浜嶋の表情は何も変わらず、淡々と話をし始める。
「用件は?」
「おい、久しぶりじゃないか、会いたかったよ、ケン」
ジェームスは嬉しそうだが、浜嶋には笑顔がなかった。
ジェームスの作り笑いは、浜嶋には分っていた。
襖の裏でお茶のお代わりをお盆に乗せたまま、黙って恵理子は盗み聞きしているのを、わかっていたように浜嶋は
「外で話そう」
浜嶋は、中庭を案内しながら話を始めた。
「今は昔の俺ではない、忘れたいんだ」
「でも、俺たちの事は忘れないよな」
「もちろんだ」
「君を見ると思い出すからな、顔を見るのが辛いよ」
「ケン、お前はうまくやってそうだな」
「お前はどうしてた」
「相変わらずだ」
「夜、寝られているか」
「全然だ、薬に頼ってる、でも量は増えてる」
「もう引退してもいいんじゃないか」
「覚えているか、ライアン」
「あぁ、面白いやつだった」
「あいつさ、俺たちに何も言わなかったけど結婚してたんだ」
浜嶋は驚いた顔をしてジェームスを見つめた
「本当だよ、ライアンの家に行ったんだ」
*
―アリゾナ州―
小さな雑貨店 年老いた老夫婦とライアンの奥さん、そして子供が2人
静かに暮らしていた。
ジェームスが車で訪ねていた。
家は豊かとはいえない、子供も学校へは行っていない。
高齢の両親の体は、自由に動けなくなっていた。
ライアンの母親は病気を患っている。しかしお金もなく高額な医療費は払えない。
「ライアンから預かっていたものです」
ジェームスは適当に嘘をつき、自分で稼いだお金をライアンの奥さんに渡してしまう。
涙を流して奥さんは喜んだ。
生きていれば何時でも稼げる。ジェームスのいいところでもあった。
*
「仕事が好きなんだよ。お金には興味がない、と言ったらうそになるかな」
「緊張感が持続する仕事がたまらないんだ。生きてる実感がする」
「本当に今のままでいいのか」
「知ってるのか、俺の今の仕事を」
「言わなくてもわかる、傭兵辞めたら、何やるかは想像がつく」
「今の仕事、すごくやりがいがあるんだ」
「本当にそう思うのか」
池の鯉を見ながら浜島は流暢な英語で話をする
「正直に生きるのもいいぞ」
ジェームスの方を叩き、気功で療術待ちをしている高齢者の元へ向かう。
連れ添いの孫たちが元気よく庭で遊んでいる。
浜嶋は頭をなでながら和室に入って行った。
ジェームスは池の鯉をただ見つめていた。
3. 孤独と苦しみ
戦場、爆音と銃声、子供の泣き叫ぶ声、
無音になり、悲惨な光景が映し出される
血にまみれた子供、内臓が破裂した妊婦
血だらけの子供が歩いている。
銃弾が子供の頭を吹き飛ばす。
浜嶋は必死に叫ぶしかし声は出ない 無音
目が覚める。しかしそこは荒野
息が荒い、悪夢は続く――
銃を口の中に入れている
打てない、引き金が引けない
目が覚め布団の中、汗が体を流れる
震えている自分の手を見つめていた。
その夜、浜嶋は寒空のなか、井戸水をくみ上げ桶に凍るような冷たい水を頭から何度もかぶっていた。その音に目を覚まし、そっと2階の窓から様子を見つめる恵理子、月明かりに浮かぶ、浜島の鍛え上げられた肉体と無数の傷跡
この男性の背中には、とても重く深い悲しみを背負っている。
私に入り込む隙間はない、恵理子にはそう見えていた。
そして、少し離れた場所で田代が立っていた。
黙って浜嶋の水行が終わるまで待っている。手にはタオル、師弟の絆の深さに恵理子は心に熱いものを感じた。
田代は黙って待っていた。終わるまで目を閉じ待っている。
田代はこころの中で――
(先生の苦しみ、悲しみを少しですが感じます)
(この道を選んで、間違いはなかった)
田代の目からひと粒の涙が流れた。
*
浜嶋は一人、暗闇の中で瞑想をする。
お寺の本堂で瞑想、
しかし、何故か集中ができない、息が荒くなる。
瞼の裏に焼きついた地獄の光景は簡単には消すことができない
直ぐに浮かぶ、赤ん坊の死体
頭を振る、頬を叩く、震える手、銃声が聞こえる。爆音が聞こえる
心臓の音が高まる。
ジェームスと会う事によって、鮮明に過去が蘇っていく――
次第に夜が明けはじめた。鶏が鳴く声が聞こえる。
目を開けたまま、浜嶋は瞬きもせずに何かを見つめたままだった。
4. ジェームスの決断
萬福寺の向かいに小高い山がある。距離にて1キロもない、山というより
小高い丘に近い。
茂みに隠れ、ラフな格好のジェームス、晴天の中、風も穏やか、
細長いシルバーのケースから高性能のライフルを取り出しパーツを組み上げていく、そして、スコープをのぞく、その先には浜嶋の姿、
高齢者の患者と会話をしている。その手前には孫だろうか、連れてきた子犬と遊んでいた。田代と恵理子も子供たちの相手をしている。
幸せそうな情景がスコープの先にあった。
再びスコープの照準を浜嶋に合わせる。ジェームスはしばらくターゲットを見ていた。
引き金に指を添える。
山鳥がうるさく鳴き始める。
一旦スコープから目を離し空を見つめる。ゆっくり流れる雲だけだ。
再びスコープを注視する。引き金に手をかける。
子供が遊ぶ画面が再びスコープに映り込む
浜嶋は気功で、高齢者の男性と笑顔で会話をしている。
深呼吸をして、再び引き金に人差し指を添える。
スコープの中の浜嶋が、ふとこちらを見た。
視線が重なる。
気づいているはずがない。
それでもジェームスは息を呑んだ。
少し力が入る。指がわずかに震えた。
人差し指を離し、スコープから目を離す
そのまま浜嶋の方を見つめて
「ケン、俺はお前がうらやましい」
ライフルを分解し、ケースに仕舞い込む。
「無理だな、俺にはできない」
ジェームスはケースを持ち上げ
「お前は、全部お見通しなんだな」
そうつぶやき姿を消した。
5. 引退宣言
走行するタクシーの中でジェームスは携帯で電話をしていた。
「悪いな、アリス、キャンセルだ、俺は引退する、金は返すよ」
「ちょっと待ってよ、今やめられたら、損害よ、どうしたの
いつも完璧に終わらせるのに、いったい何があったの」
「理由はどうでもいい、俺はもうやめる、引退だ」
「じゃあ、別の仕事人に頼むだけよ」
「依頼主は誰だ」
「バカね、言える訳ないでしょう」
「元が消えれば、依頼は消える、こちらで調べるよ」
「ジェームスやめて、大事なクライアントに手を出さないで」
ジェームスは携帯を切り、東京へ向かった。
*
浜嶋は山で瞑想をしていた。必死に集中しようと懸命だった。
毎日のように悪夢に襲われる。
田代がその様子を見ていた。
「先生………」 そして自分自身も先生の苦しみが、気の流れを感じ
胸を押さえ苦しい顔になって行く――
*
和室 で生後3カ月の赤ん坊を連れてきたお母さん
小児科では異常がないと言われたが、赤ん坊が苦しそうなので見てほしいと
浜嶋のもとを訪ねてきた。
田代の名前を呼んでもちょうど、田代は萬福寺にはいなかった。
何かはわからない。子供が泣きだす。足をぴくぴく動かす。
あの時の場面が鮮明に流れ始める。
何もできずに――しばらく座って赤ん坊を見ていた。
「先生どうかしましたか」
「すいません、少し席を外します」
浜嶋は席を立ち、奥の座席に呼吸を整えるため移動した。
(田代が過去を克服できたのに、私はできないのか)
自問自答を始めた。
母親は子供をあやしながら、浜島を待っていた。
その時、浜嶋のインドの師匠の気を感じた。まさか、浜嶋は気を集中させて
意識をインドの師匠にむけた。間違いない、気を送っていただいていている。
私のために――そう感じた瞬間、浜島の体に気の力が湧いてきた。
「お待たせしました」
そこにはつい数分前の浜島ではなくなっていた。自信に満ちた浜嶋正憲であった。
赤ん坊へ気を送り始め、数分、太ももを少し触りながら、泣いていた赤ん坊は、
すやすやと眠り始めた。
6. スーパー買い物
スーパー小池
人の少ない店内、山本はカーゴに籠を置き、理恵子に連れられ買い出しをしていた。恵理子は次々と食料品をかごに入れていく、恵理子は買い物を楽しんでいるかに見ていた。それは田代の存在が大きい。弟のようなノンイケメン。
恵理子はもう顔で選ぶのはつくづく嫌になっていた。
無意識に田代の顔を何度も見てしまう。
そして、短時間で買い物かごはいっぱいになった。
「恵理子さん、これとこれは必要ないのでは」
田代が、ダイエット食品を買っているのに、甘そうな洋菓子も籠に入れていたからだ。何が無駄なのか田代にもわかる。
その矛盾点を田代は恵理子に指摘した。
「お姉さん、何故、ダイエット食品と太りやすいものを同時に買うんですか」
「田代君にも食べさせてあげようと思って」
「意外と優しいんですね」
「そうよ、わたしはやさしい」
野菜を掴んで「やさいしい」
つまらないおばさんのダジャレで田代は笑い出す
「笑った!」
「すみません」
「でも、僕はこちらが好きです。」
「ん、プリン」
「やはり、ガキか」
「ひどいですよ、お姉さん」
二人は言い争いをしながら楽しそうだ。
*
エピソード12 完
つづき
エピソード13
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