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人生初ショートカットはというと

人生で初めてショートカットになった。30cmほど美容室で髪を切ってもらったのだ。誰がどの角度から見ても「ショート」と答えるくらいのショートカットになった。英語でも短い髪型は「short hair」らしい。世界が認める、ショートカットになった。

「失恋ですか?」と聞いてくる人がいたらちゃんとキレようと心構えしていたが、案外誰からも言われなかった。さすがにもう言う人はいないのかな。だとしたらいい時代になった。

人前に出る仕事をしているので、髪型を含めた見た目の印象を極力変えたくないと思っている。10代前半から、「顔を覚えてもらう仕事だからなるべく印象を固定したい」と考えて過ごしていた。その気持ちのおかげで髪を染めたことは一度もないし、髪型に大きな変化をつけたこともない。

随分と前に有吉弘行さんがラジオで「日焼けしたり髪型を変えたりしないようにしている。内村さんイズム」というようなことを話されていて、それがずっと頭から離れなかったのも大きい。それもやはり、テレビに出る人として見た目の印象を変えたくないというような話だった。

そのような背景で、髪型や髪色で冒険することなく10代を過ごし22歳になった。服装で外見的な自己表現はできるので、髪型に関しては特に変えようという気もなかった。
しかし、「いつか髪型をショートにしたい」という願望はあった。前髪ありの黒髪ロングは幼い印象があるし、それなりに年齢を重ねたころには流石に一度印象を変えたいなという気持ちがあったのだ。

1年半ほど前に前髪の切り方だけ変えて、全体の髪の長さも少しだけ伸ばしてみた。他人からしたら誤差の範囲だとは思うが、黒髪・前髪あり・ロングという狭い範囲で変化をつけてみたのだ。数センチ髪を伸ばし、そこからは1ヶ月に1回伸びた分だけ切ってもらうスタイルで美容室に通っていた。

髪が伸びると、その分洗うのも髪を乾かすのも時間がかかるようになる。“風呂キャン”こそしないけれど、お風呂の時間が好きではない私はこの毎日の作業がかなり嫌だった。毎日毎日、そこそこの長さの髪を濡らして・洗って・乾かして。乾かさないまま放置するのは髪に悪いので絶対にお風呂上がりすぐにドライヤーをするが、ドライヤーの時間は大嫌い。

「私これ昨日もやったのに」と思いながら、熱風を当て続け、頭が熱くなってたまに冷風に切り替えて、また熱風で乾かして。完全に乾き切るまで10分以上はかかる。この時間に汗をかいた日には「もう、しりません」という、向けどころのない怒りのようなものが込み上げてくる。大きい声で歌ったり、大きい音でラジオを流したりして誤魔化しながらこなしていた。

抜け毛が長いのも地味に嫌だった。長い髪の毛が落ちているのは、なんだか不快感がある。季節の変わり目は抜け毛が多く(元の毛量も多い方だが)、髪が長いと余計抜け毛のボリュームが多く感じられて、気持ち悪いなあと思っていた。 

以前より夫や親などは私に対して「髪が短い方が似合うと思う」と度々言っていた。切った方がいいとまでは言わないので聞き流していたが、近くで自分を見ている人が言うならきっとそうなのだろうなとはぼんやり思っていた。まあいつか、いつかイメチェンするわよと、漠然と思うだけ。

でも、最近になって急にその自分の考えに疑問が湧いてきた。いつか、年を重ねたらって、具体的にいつなのだろう。結局変化に踏み切れていないだけなのではないか。正直、いま私のことをよく見ている人なんてほとんどいないわけで、維持するほどの印象なんてないのではないだろうか。だったら今ショートカットにして、その印象を突き通した方がいいのではないだろうか。

また、普段はガーリー/モード/クラシカル系の服、古着をよく着ているのだが、ファッションに対しては無難な髪型だった。髪型自体は割と普通だし、あまり個性もない。ショートカットくらいにした方がより洗練されて、ファッションの幅も広がって、いいような気がした。

毎日毎日「昨日もやったけどな」と嫌々お風呂に入って髪を洗って乾かす時間が苦痛すぎたというのもある。結局これが最大の理由かもしれない。

モテたいわけではないし、可愛く見られたいわけでもないし、清楚感のある黒髪ロングを死守している意味ってあまりなかったのかも、と急に思えてくる。そして、思い立ったからには中途半端なことはしたくないので、バッサリ、バッサリといこう、と思った。バッサリ切ったらそこからは固定。
そう覚悟を決め、マネージャーさんと長年お願いしている美容師さんの「いいと思います」をもらって、いよいよ30cm近い断髪に行った。

人生初のショートカットは、すっっっっっっごく快適!

髪が短くなって初めてのお風呂は稲妻に打たれ続けているのかと思うくらい驚きの連続だった。シャンプーが楽すぎる。リンスがいらなすぎる。髪を縛らなくても湯船に髪が浸からない。お風呂上がりに髪を絞らなくても水滴が垂れてこない。衝撃。今までの私の生活ってなんだったのでしょう。

極め付けはドライヤーの時間だ。軽くドライヤーを当ててタオルで撫でておくだけで、水気がほぼなくなっている。
犬?犬か?犬を乾かしているのか?
犬を乾かしているのかと思った。本当に。いや、犬を乾かしたことがあるかと聞かれたら多分ないのだけれど。心の底から犬を乾かしているみたいだ、と思った。犬の種類にもよると思うけれど。

いない犬が見えるプチパニックが発生するほどには楽で、涙が出そうになった。ありがとうございます…何に…(涙)といった具合で。

ショートカットになって早5日。まだ鏡を見ているだけで「うわ〜短い!」とおもしろがれる時期。しかも気に入っている。
身近な人の後押しがあったとはいえ、ボーイッシュさも出るし大衆ウケ(?)からは遠ざかるだろうと、切るまではなんとなく考えていた。しかしいざ「髪が短くなりました」と画像を投稿してみるとみんなが褒めてくれる。褒められるためにやったわけではないのに、結果的に褒められて、ラッキー。

ライブ配信をやっても否定的にコメントする人は1人もおらず、みんな「似合ってる」なんて言ってくれて、たまげた。これは想定外。ありがたいね。

実を言うと少し前から「他人の外見なんて本当は誰も興味がないのではないだろうか」と考えるようになっていた。私ごときが、髪を切ったって、染めたって、顔中にピアスを開けたって、すごろくの柄のタトゥーを入れたって「そうですか」としか思われないのではないかと。そして、しばらくすれば前からそうだったみたいに、誰も前の姿を覚えていないのではないかと。

ところが、友達からは「すれ違ったら気づけないくらい変わった」と言われた。髪型ってそんなに人を判断する材料になっているんだ。
変化に対して褒められたことからも、“他人の外見に興味がない”という考えは実際とは異なるものだったとわかる。みんな、意外と他人の外見に興味があるのだな。

これを機に自分の魅力とやらが増すといいのだけれど。それは絶対に自分の努力次第なのだけれど。というか私は喋ったり書いたりと視覚的要素のない仕事が多いのだけれど。まぁ、滅多にないイメチェンなので、心機一転頑張りたくなった。まあいつも頑張りたいのだけれど。
当然髪が短くなったところで内面は変わらない。今後は髪が短そうな文章が書けるといいね。

QJWebで連載の最新記事が公開されています!
今月は、先日放送された「THE SECOND」について書きました。いつも気合を入れて書いていますが今月は特にいい記事だと、我ながら思っています。お笑いが好きな人にはもちろん、そこまで詳しくない方にもぜひ読んでいただきたい記事です。

先日文学フリマでお話しした方が、この連載をよく読んでくれていると話してくださって嬉しかったー。「好きな芸人さんはいるけれど、お笑い全体はあまり知らないのでこの記事で情報を得ている」というようなことを言ってくださった。そんな方がいるとわかると、俄然やる気が出ますね。
皆様ぜひお読みください!

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