50代からは、何が変わる? 「リスクを並べる」よりも大切な、暮らしを守る余力【ねこや#133裏話回】
「ねこや」は、猫たちとカフェの日常を通して、暮らしやお金のちょっとしたモヤモヤを身近に紐解くショートストーリーです🐾☕️
(#132) 閉店後、奏太のもやもやから突如始まった、スタッフたちの「夜のFPミーティング」。
50代って、いったい何から備えればいい?健康、介護、働き方、住まい、老後……重なり始めるリスクとどう向き合うべきかを考えます
その日の閉店後のねこや。
最後のお客さんを見送り、夏海がテーブルを片づけていると、奏太がコーヒーを片手に戻ってきた。
「さやかさん」「なに?」
「さっき、俺の話止めましたよね」
「ああ、医療費がどうとか言い出したやつ?」「そうです」
さやかが笑う。「だって、せっかく女子会が盛り上がってたのに」
「でも、結構大事な話ですよ」
その言葉に、近くで片づけをしていたYUKIが顔を上げた。
「そうね。大事な話だけど、今日のお客さんたちはもう、そこは肌で分かっていたように思うわよ?」
「どういうことです?」
「じゃあ、今からやろうか? 閉店後のFPミーティング。今日のお客さんたちを見て、50代から一体何が変わるのか」
カウンターで帳簿を閉じた川崎も、コーヒーを持ってやってきた。
「面白そうだな」
こうして、閉店後の即席FPミーティングが始まった。
奏太がノートを開く。
「50代以降のリスクとして、今日のお客さんの話を聞いていても、健康、介護、実家、老後……いろいろ増えてきますよね」
さやかが苦笑する。
「そうね。子どもの教育費が終わって、やっと自分たちのお金を貯められると思ったら、今度は親と自分たちの問題が始まるのよね」
YUKIが静かに頷いた。
「50代って、リスクの数が増えるというより――」
少し間を置いて続ける。
「いろんなリスクが、重なり始める時期なのかもしれないわね」
「重なる?」夏海が尋ねた。
奏太がノートにペンを走らせる。
自分と家族の健康: 病気やケガだけでなく、体力の低下や無理が利かなくなること。今までと同じ働き方が続けられなくなる可能性。
親の介護: 費用の負担だけでなく、病院への付き添い、実家への移動、仕事の調整。
働き方の変化: 役職定年、再雇用、会社の制度変更、転職。収入の波が変わるタイミング。
住まい: 残りの住宅ローン、社宅の退去、築年数が経った自宅の修繕費用。リタイア後の住まいにかけるお金。
老後: 資産を本格的に準備するために残された時間。
奏太がペンを置いた。夏海がそのメモをじっと見つめる。
「……こうやって並べると、ちょっと怖いですね」
「そうなのよね」さやかが笑う。
「だから、わたしたちは並べすぎちゃダメなのよ」
「え?」夏海が目を丸くした。
「全部に完璧に備えようと思ったら、お金なんていくらあっても足りないじゃない」
川崎が静かに頷いた。
「親が必ず重い介護になるわけじゃない。自分が必ず大病するわけでもない。会社が必ず傾いたり、早期退職するわけでもない」
「でも、何も起きないとも限らない」
YUKIが続ける。
「だからFPがするのは、未来のリスクを全部並べて不安を煽ることじゃないのよね」
「じゃあ、何をするんですか?」夏海が聞いた。
「何か起きても、全部が『すぐに』崩れないように基礎体力をつけておくことよ」
現金の余力はあるか。
保険は今のステージに合っているか。
住宅ローンはいつまで続くのか。
もし働けなくなったら、どうカバーするか。
親のこれからについて、家族で話せているか。
積み立てた投資や運用の出口戦略は考えているか。
そして、自分たちは何歳まで、どんなふうに働きたいのか。
奏太がノートを見つめながら言った。
「なるほど。50代からは『いくら貯めれば正解か』という数字の足し算より――」
川崎が続ける。
「何か起きたときに、ある程度動ける余力のある家計で受け止められるようにしておくことか」
「そうね。それが家計の出口戦略にもつながるわね」
YUKIが頷いた。
「若いころは、これから何を手に入れるかを考えることが多いでしょう? 家を買う、子どもを育てる、車を買う、旅行へ行く、資産を増やす……」
「でも50代くらいからは、それにもうひとつ加わるの」
今ある暮らしの「大事な部分」を、どう守っていくか。
さやかがコーヒーを一口飲んで笑った。
「やっぱり、人生のステージはここで大きく変わるのねぇ」
「でも」夏海が言った。
「今日のお客さんたち、すごく楽しそうでしたよ」
全員が顔を見合わせて笑った。確かにそうだった。
介護の話をして、健康の話をして、老後の話をして。そのあと、減塩レシピと美活の話で大盛り上がりしていたのだ。
川崎が静かに言った。
「年齢を重ねれば、リスクが増えることはみんな少しずつ分かってくる。親を見たり、自分の体が変わったりして、自然と心の準備もしていくんだろう」
そして、少し口元を緩める。
「だからといって、リスクに備えながら生きることと、人生がつまらなくなることは別だからな」
「そうね。一段あがったステージで『違った楽しみ』を一緒に考えられるのは、わたしたちの楽しみでもあるわね」
YUKIも微笑んだ。
そのとき。
厨房から、ガタン!と大きな物音が響いた。全員が一斉に振り返る。
見ると、チョコが昼間の「減塩スイーツ」の試作をまだ続けていた。
その横には、山積みにされた大量の砂糖の袋。
ナッツが必死に前足で止めている。
「だから入れすぎにゃ!」「塩は一粒も入れてないにゃ!」
「そういう問題じゃないにゃ!」
すると、キャットタワーからロコが勢いよく飛び降りた。
「チョコ! 砂糖じゃないにゃ!今日はねこやの美活メニューを徹底研究するにゃ!」
「にゃっ!?」
どうやら、ねこやの夜はまだまだ長そうだ。
ねこや」のFP裏話回を、こそっと覗いていただきありがとうございました。
50代前後は、健康・親のこと・仕事・住まい、そして育ててきたお金の使い方(出口戦略)と、さまざまな変化が重なる時期です。
大切なのは、過度に不安がって完璧な備えを目指すことではなく、「何かあっても崩れない基礎体力(余力)」を家計に持たせておくこと。
新しいステージならではの楽しみも見つけながら、軽やかに備えていきたいですね。
