「いい親」を頑張るほど苦しくなる理由〜"縦の関係"の子育ての正体〜
「ちゃんと育てなきゃ」
そう強く思えば思うほど、イライラしたり、苦しくなったりすること、ありませんか?
頑張れば頑張るほど、子どもとの関係が良くなるどころか、逆に気が落ち込むような行動をするようになっていく。
そんな感覚を抱いたことがある方は、僕だけではないと思います。
僕自身、保育士1年目の頃、まさにこの感覚に苦しんでいました。
「ちゃんとしなきゃ」という思いが強すぎて、子どもを強く叱ってしまうことが増えていったのです。
そして、それは子どもを恐怖で支配する形になっていました。
恐怖が及ばない場面になると、子どもたちははしゃぎ回る。
それをまた叱る。
そんな負のループに入っていた時期がありました。
これは、僕が特別ダメな保育士だったからではないと、今なら思います。
「ちゃんとしなきゃ」という気持ちは、子どもを大切に思うからこそ生まれるものです。
そして、その頑張り方には、実は落とし穴が隠れていることがあります。
この記事では、頑張るほど苦しくなってしまう理由と、その正体、そして明日から少し肩の荷を下ろすための考え方をお伝えしていきます。
「ちゃんとしなきゃ」と思うほど疲れていく、よくある場面
朝の身支度、時間がないときほど「早く終わらせなきゃ」と思いますよね?
そう思えば思うほど、子どものペースにイライラしてしまう。
急いでいるときに限って、子どもはのんびりしているものです。
丁寧に関わろうと意識しているときほど、子どもが思い通りに動いてくれないと、感情的になってしまいやすくなります。
「今日は優しく接しよう」と決めた日ほど、子どもがわがままを言ってきて、結局怒ってしまった。
そんな経験はありませんか?
人前で「〇〇ちゃんはいい子だね」と言われたい気持ちから、強く叱ってしまうこともあるかもしれません。
こうした場面に共通しているのは、「ちゃんとしなきゃ」という思いが強いときほど、うまくいかない現実とのギャップに苦しくなるということです。
頑張りが足りないわけではなく、むしろ頑張っているからこそ、この苦しさが生まれるのです。
頑張るほど苦しくなるのは、「べき」に縛られているから
「親はこうあるべき」
「ちゃんとしつけなきゃ」
こうした「べき」という思考が、実は自分自身を追い詰めていく原因になっていることがあります。
僕自身、まさにこの「べき」に強く縛られていた人間でした。
そして、それを子どもたちにも押し付けてしまっていたのです。
今思えば、子どもをただただ悲しい気持ちをさせてしまったなと感じています。
当時の僕は、子どもたちの振る舞いが、ほかの先生方からの評価であるかのように感じていました。
子どもがふざけたり、指示を聞かなかったりすると、「僕の評価が下がる」という気持ちがどこかにあったのです。
だから「僕の評価が下がるから、ちゃんとしてくれ」という無意識が働いていました。
これを家庭に置き換えてみると、わかる方も多いのではないでしょうか?
「ちゃんとした家庭に見られたい」
「良い親だと思われたい」
という気持ちから、子どもの行動に必要以上に反応してしまう。
子どもの姿が、いつのまにか自分自身の評価と結びついてしまっているのです。
このとき苦しんでいるのは、子どもではなく、実は自分自身なのかもしれません。
その苦しさの正体は、"縦の関係"にある
なぜ「べき」に縛られると、こんなに苦しくなるのでしょうか?
その答えのひとつが、アドラー心理学が示す「縦の関係」という考え方にあります。
縦の関係とは、簡単に言うと、上と下で人を見る関係性のことです。
評価する側とされる側、コントロールする側とされる側。
親と子の関係は、この縦の関係になりやすいと言われています。
一見、これは子どもだけが縛られる関係のように思えるかもしれません。
そして、実はそうではないのです。
縦の関係にいるのは、子どもだけではありません。
上に立つ側、つまり親自身も、この関係の中に縛られています。
上に立つということは、
「すべてをちゃんとコントロールしなきゃ」
「全部自分が背負わなきゃ」
というプレッシャーを引き受けることでもあるからです。
子どもの行動も、しつけも、評価も、すべて自分の責任だと感じてしまう。
これでは、苦しくなって当然です。
「いい親」を頑張るほど苦しくなるのは、この縦の関係の中で、知らないうちに全部を背負い込んでしまっているからなのです。
「これは誰の課題?」と考えるだけで、肩の荷が少し軽くなる
縦の関係から少し抜け出すために、アドラー心理学ではもうひとつ大切な考え方が紹介されています。
それが「課題の分離」です。
これは、目の前の問題が「誰の課題なのか」を考えてみるという、シンプルな視点です。
たとえば、子どもがご飯を食べない場面を思い浮かべてみてください。
「食べさせなきゃ」と親が全部背負ってしまうと、あの手この手で食べさせようとしたり、食べないことに苛立ったりしてしまいますよね?
そして、食べる・食べないは、本来子ども自身の課題でもあります。
もちろん、栄養面の心配から声をかけることは大切です。
そして「食べさせること」を親がすべて背負う必要はありません。
「食べるか食べないか決めるのはあなただよ」と、少し距離を置いて見守ることもできるのです。
このように「これは誰の課題だろう?」と一度立ち止まって考えるだけで、抱え込んでいた責任の重さが、少しだけ軽くなります。
すべてを自分の責任にしなくていいと知ることが、肩の荷を下ろす第一歩になるのです。
今日からできる、「これでいい」の小さな実践
課題の分離を意識できるようになったら、次は「これでいい」を選び直す練習です。
たとえば、今日はやりたくないと子どもがごねる宿題は、「今日はやらなくてもOK」としてもいいのです。
食事も、1日3回きっちり食べさせなきゃと思い込んでいたけれど、1日1回や2回の日があってもいいと考えてみる。
完璧でなくても、子どもはちゃんと育っていきます。
僕自身が実践しているのは、「63点」という基準の持ち方です。
100点を目指すと、少しのズレが気になって時間も体力も削られてしまします。
しかし、63点という余裕のある基準にしておくと、多少うまくいかない日があっても「よし、これでOK」と思えるようになります。
これは、手を抜くということではありません。
頑張りどころを見極めて、それ以外の部分は「これでいい」と手放す練習です。
今日、ひとつだけでいいので、「これでいい」と思える場面を見つけてみませんか?
その小さな積み重ねが、日々の苦しさを少しずつ軽くしてくれます。
コントロールしようとしない関わりが、子どもを安心させる
これは僕が年長クラスの担任をしていたときの話です。
卒園式が近づくと、座り方の練習をする機会がありました。
足を閉じて座れていると、やっぱり嬉しいものです。
だから、足を閉じて座れている子を見つけたとき、僕は素直な気持ちのまま「足を閉じて座ってくれてるの、ほんとかっこいい」と伝えました。
すると、不思議なこに、他の子どもたちも、自然と足を閉じるようになっていったのです。
誰かに強制されたわけでも、決まりを押し付けられたわけでもありません。
一方で、こんな場面もありました。
足を閉じるのが苦手な子に対して、責任感の強い先生が、足跡の描かれた紙を用意し、「ここに足を揃えるようにしようね」と丁寧に支援していたのです。
とても素敵な関わり方だと思います。
しかし、その子にとっては逆効果になってしまいました。
その子は、人が抵抗を示す反応を引き出すことで、注目を得ることを好傾向がある子でした。
だから、足跡から足をずらすたびに先生が声をかける、というやり取りが、どんどんエスカレートしていきました。
「ちゃんとさせよう」とコントロールする関わりよりも、感じたことをそのまま伝える関わりの方が、子ども自身の意思で動く力を育てることがあります。
ちなみに卒園式当日、あまりにもかっこよすぎる姿を子どもたちが見せてくれて、僕は大号泣してしまいました。
いい親を目指さなくていい。あなたらしくいることの方が大切
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
最後に、お伝えしたことを簡単に振り返ってみますね。
頑張るほど苦しくなるのは、「べき」という思考に縛られ、縦の関係の中ですべてを背負い込んでしまうからでした。
そして「これは誰の課題?」と考えることで、その荷物を少し軽くすることができます。
完璧を目指すのではなく「これでいい」を選び直すこと、そしてコントロールしようとせず素直な気持ちを伝えることが、子ども自身の力を育てていきます。
いい親を目指す必要は、ありません。
無理に笑顔でいなくても大丈夫です。
あなたらしくいることの方が、ずっと大切です。
今日、ひとつだけでいいので、「これでいい」と思える場面を見つけてみませんか?
その小さな一歩が、あなたと子どもの関係を、もっと自然で心地よいものにしてくれるはずです。
