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きゅうり一本分の余白|ビンゴエッセイ

4歳の娘は、きゅうりが好物だ。

回転寿司へ行けば、河童巻き。
家では、お酢につけたきゅうりの漬物を、お弁当に入れることもある。
緑色が少し入るだけで、お弁当箱の中が夏らしくなる。

これだけきゅうりが好きなのだから、夏のうちに一本漬けを作ってあげたいと思っていた。

冷蔵庫でよく冷やしたきゅうりを、割り箸に刺して。
お祭りの屋台のように、丸ごとかじらせてあげたい。

作り方は、きっと難しくない。
きゅうりを板ずりして、漬け汁に入れて、冷蔵庫で冷やしておくだけ。

それなのに、できていない。

毎日のやることを追いかけているうちに、きゅうり一本を漬ける余裕さえないまま、夏が過ぎていく。

一本漬けを作らなくても、娘は困らない。
河童巻きも食べられるし、お弁当にはいつもの漬物を入れればいい。

大したことではない。
だからこそ、恨めしい。

子どもに「してあげたい」と思うことは、たいてい、こんな小さなことで。

好物を作ってあげたい。
喜ぶ顔を見たい。
夏らしい思い出を、ひとつ増やしたい。

けれど忙しい日々のなかで、最初にこぼれ落ちていくのも、そういう小さなことなのかもしれない。

娘は、一本漬けがなかった夏など覚えていないだろう。
けれど私は、作ってあげられなかったことを覚えている。

これは、きゅうりの話であって、きゅうりだけの話ではない。

まだ、夏は終わっていない。

次にきゅうりを買ったら、一本だけ、漬けてみよう。

娘のために。
そして、きゅうり一本分の余白を、私の暮らしに取り戻すために。


喜木 拝

#ビンゴエッセイ

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