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水路の蜜柑

みかんのような柑橘が身動き取れなくなっていた。
水路と水路がぶつかって、T地路みたいになった場所でのことだ。

流れに晒されてぷかぷか浮き沈みを繰り返しながらも、進むことも戻ることもできずにいる。


近隣で育てている家も見かけるものの、この水路の延長上にはない。どこから運ばれてきたのかもわからない。

たまに、ブロッコリーや、茄子や、大根などがこうして水路や川で詰まっていることがあるのだけれど、どこからやってくるのだろう。



四国に来てから、狭い道で車とすれ違うとき、くっと身体が硬くなるようになった。

自分の肩幅よりも狭い歩道の、めいっぱいぎりぎりまで端に寄って、なんとか避ける。
少しでもバランスを崩したら水路に落ちてしまいそうで。


こちらでは、狭い道ほど両側に水路があることが多い。

蓋はされておらず、路面から50cm~1mくらい下を水が流れている。

夜は街灯もなくまっくら。

たまに、車が落ちて、傾いている。
そのままの勢いで田んぼに突っ込んだろう。車は引き上げられているものの、稲の一部が横倒しになって、ミステリーサークルのようにつぶれていることすらあった。



水路は、清冽な小川……といった感じではない。

水は綺麗だ。
暖かくなると、水に浸からない端の方から、つやつやした丸っこい葉が旺盛に伸びてくる。
水に溶け込むように藻が揺れる。

水中に魚や生きものはいないけれど、夏前になると水路の側面に毒々しいショッキングピンクの、つぶつぶの集まりがつく。

ジャンボタニシの卵。
田んぼの天敵。成体は水中に棲むのに、卵は水に落ちると死ぬ。


雨のあとは、薄めたコーヒーみたいに濁って、道路の高さぎりぎりまで盛り上がってくる。
枯葉や木の枝をすごいスピードで押し流していく。



水路は田んぼの水源として使われるらしい。
毎年、初夏に掃除の案内が来る。


例年、夫の勤務日なので、わたしは課金して逃れている。

子どもを置いて行くわけにもいかない。

また、年に一度のために、専用の大きな道具や、普段身につけないような装備を買おうとは思えなかった。

必要なのは、海に入るようなズボンと靴が一体化したもの、ゴム手袋に首にまくタオル、帽子など。

課金する人は、地域一帯のなかで10人にも満たず、また、当日にしか受け付けてもらえない。


はじめて案内があった年のこと。
ワンマイルウェアの黒いワンピースをひらひらさせながら向かったわたしは、ぴしゃりと固まった。


まず、女性率が少なかった。
3パーセントにも満たない。

いたとしても年配の、それでいて元気そうな、チャキチャキしたおばあさんたちばかり。顔なじみなのか楽しそうにしゃべっている。


"課金"は集合場所で行われる。

そこへの道が、まるで王様の謁見のようだったのだ。

車が通れないくらい細い道の両側に、完全防備した男性陣が、ジョレンという道具を、まるで槍のように体の側面に添わせてずらりと並んでいた。

その隊列の真ん中を、無防備なワンピース姿で通るわたしは、いやな住民に映るのでは、と不安になりながら通る。


集合場所で住所と名を名乗る。
なるべく小さな声で。



水路のみかんは、わたしにそんな毎年の恒例行事が迫ってきていることを告げていた。
今年も少し憂うつな朝7時が近づいているのだ、と。




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三條 凛花 最後までお読みいただき、ありがとうございます♡